照葉樹林
Syou You Ju Rin
EYAMA, Makomo's Personal Portfolio of
original drawings and novels
壱、 若き悪代官の悩み
/*時代劇風に若干大げさに演じてください*/
/*登場人物 若い悪代官 爺 以上2名*/
爺「お帰りなさいませ、若」
悪代官「爺よ、父上亡き後、悪代官として立派に勤めておるのだから、もう『若』よばわりはやめぬか」
爺「さようにござりますが、私めにはまだまだ若はいとけなきころとお変わりなく思えるのでござりまする」
悪代官「もう俺も一人前だ。今日も今日とて、俺は悪代官の名に恥じぬ悪逆非道を働いてきたのだぞ? 」
爺「それはそれは……して、本日は何を?」
悪代官「ふふふ……街の湯屋へ行ってきた」
爺「何と!」
悪代官「聞いて驚くな……服を脱いでからかかり湯などせず湯船へどぼん、だ。そして湯船の中で手拭い使いまくりんぐ」
爺「おお……」
悪代官「それから半里ほど泳いできた。どうだ、神をも恐れぬ悪行であろう、ふははははははは」
爺「若……」(泣きだす)
悪代官「何を泣いておる。さては我が成長に感極まったのだな」
爺「いいえ! 逆でございます……爺は……爺は情けのうて……」
悪代官「何?! 情けないとな?!」
爺「はい……先代さま、若のお父君は、それは見事な悪代官でございました。街の湯屋にても、もう比類なき悪の権化で……」
悪代官「何だと?! 父上は俺以上のことをやったというのか! 何をやらかしたのだ?! 言え!」
爺「この口から申し上げると、無粋でございますゆえ、ヒントを差し上げます。若が本当の悪代官にあらませば、おのずとお父君の行いと、そこに込められたお志を必ずや感じ取ることができましょう」
悪代官「早くそのヒントとやらを出せ」
爺「ヒント1:女湯で濃厚原液連射」
悪代官「……は?!」
爺「ヒント2:湯船の中でカレー発射……もちろん比喩表現でございます」
悪代官「それって……それって……え? えー?! それマジでやったの? 親父が? え?」
爺「マジにござります」
悪代官「悪いよ! マジで悪すぎるよ!! えんがちょだよ!! 最っ低!!」
爺「そこが悪代官の悪たるゆえんでござりますから」
悪代官「悪っていうか、汚えよ!」
爺「覚えておられませぬか? ちょうどその時若は湯船においでで」
悪代官「うわああああああああ」
/*可能ならばSE:時代劇の幕引きっぽいしっとりした切なめの音楽*/
爺「そう、その夜、若は代官屋敷から出奔してしまわれたのです。今はどこで何をしておられるか、我々には知るすべもござりませぬ……」
弐、 女子代官と悪徳商人
/*時代劇風にやや大げさに演じてください。ただし、女子代官はイマドキ風でお願いいたします*/
/*登場人物→ 女子代官 悪徳商人のおじさん*/
悪徳商人「本日は手前どものむさくるしい屋敷までよくお運びいただきました」
覆面の女子代官「なんか用? 私、早く帰りたいんだけど」
悪徳商人「お目にかけたいものがございまして、ふふふふ」
女子代官「山吹色のお菓子? さすがにちょっと飽きてきたんですけどぉ」
悪徳商人「そうおっしゃると思いまして本日ご用意いたしましたのは、将軍様でも手に入らぬ極上の絵草紙《えぞうし》にござります」
女子代官「え~本~?」
悪徳商人「そう仰らずに、この箱をどうぞお納め下さいませ」
女子代官「見るだけ見てあげるけど……」
悪徳商人「ささ、どうぞ」
女子代官「じゃあ、開けるよ?」パカッ
悪徳商人「ふふふ、お好きでございましょう?」
女子代官「……なにこれ……」
悪徳商人「当代きっての絵師の限定版でござります。新刊部数が非常に少ないと聞き及び、随分並び申しました」
女子代官「……っつーかさあ……これおじさんが並んで買ったの?」
悪徳商人「無論でござります。それもこれもみな、お代官様のため……ふふふふ」
女子代官「何笑ってんの? 引くわー、めっちゃ引くわー」
悪徳商人「はい?」
女子代官「おじさんさあ、なんか基本的に勘違いしてるよね? 私こんな|衆道《しゅどう》、もとい、びいえるの絵草紙とか興味ないんだけど」
悪徳商人「え?」
女子代官「なんでそんなに意外そうなの? なんで若い子はびいえるが好きとか勝手に思っちゃってんの? もしかしておじさん自身がびいえる好きなんじゃないの?」
悪徳商人「お、お待ちくださりませ! 誤解にござります! あっ、ではこちらはいかがにござりましょう? 今を時めく二枚目ナマモノ夢でございますよ!」
女子代官「なにそれ」
悪徳商人「ナマモノは実在の人物を使った二次創作作品群を指し、夢というのは自分自身、あるいは自分が作った人物を物語に入れ込んでいるものを呼ぶのでございます。例えばこちらなど、村中屋のぺけ右衛門と夢女子の甘ーい新婚日常ものでございまして」
女子代官「……うーん、ピンと来ないわー」
悪徳商人「ご存じありませぬか、ぺけ右衛門」
女子代官「友達は好きって言ってたけど、私はいまいちって感じ」
悪徳商人「ほかの役者のものも取り揃えております、一度、お試しだけでも……」
女子代官「もう帰っていい? 明日、手習いの試験もあるし。勉強と代官の両立ってホント大変なんだからね?」
悪徳商人「……お疲れ様でござりまする」
女子代官「おじさんもさあ、|素人絵草紙市《しろうとえぞうしいち》の薄い本ばっかり読んでないで、普通にお仕事頑張ったほうがいいと思うよー、ばいばーい」
参. 悪代官とイワシの塩焼き
/*時代劇風にやや大げさに演じてください*/
/*登場人物2名 悪代官→けれんみたっぷりに、ときどきカワイく 侍→正義っぽく*/
悪代官「ふはははははは、おぬしは、飛んで火に入る夏の虫、そのままじゃのう」
侍「くっ……もはやこれまで……」
悪代官「そもそも、剣技の|如何《いかん》より、礼儀がなっておらぬ。よそ様のお宅へ伺う時は玄関から入るものであろう!」
侍「正義の侍は、どこから入ってもいいことになっておるのだ!」
悪代官「(素で、ちょっとかわいく)それって正義?」
侍「うっ……」
悪代官「さらに、なぜ|夕餉《ゆうげ》どきを選んで押しかけてきたのだ! 飯の匂いに惹かれて参ったのではあるまいな? まったく、下郎のすることは卑しいのう」
侍「違う! これはたまたまだ!」
悪代官「今宵の夕餉はわが好物、焼きイワシであるというのに冷めてしもうたわ、この不届き者が!」
侍「いい年したおっさんが|下魚《げぎょ》ごときでガタガタ抜かすな!」
悪代官「貴様、今、下魚ごとき、と申したな?!」
侍「ああ、申した」
悪代官「ではこのイワシを|腸《わた》まで食って、もう一度同じ言葉を申してみよ。尻尾は、残してもよい」
侍「えー? 冷めておるではないか」
悪代官「冷めてしもうたのは貴様のせいであるぞ! さあ、食うてみよ!」
侍「まあ、そこまで申すならば食うてやらんでもないが」
/*間を置く。可能なら、何か食べている音を入れる*/
侍「うまっ!! この腹んとこの脂、すげえ! うちで食ってるのと違う!」
悪代官「魚が違う、炭が違う、焼き手が違う! おぬしが知るイワシとはすべてが違うのだ! 今夜の献立を女中より聞き及び、心待ちにしていた我が真意、思い知ったであろう」
侍「これ、マジでうまい。白飯欲しいわー。でも熱々のうちに食べたらもっとうまかったろう……」
悪代官「(被せ気味に)貴様が申すな下郎が!」
/*少しマイクから顔を離し、遠くへ呼びかけている風に*/
悪代官「誰ぞある! もう一尾焼きイワシを持て! あっつあつのやつ!」
悪代官「(少し間をおいて素で)え? ないの? なんで? え?」
/*マイクへ声を入れる位置を戻す*/
悪代官「おのれ……貴様、わしが楽しみにしておったイワシを食うてしもうたな」
侍「|其許《そこもと》が食えと申したではないか!」
悪代官「よそ様の屋敷に食事時に押しかけ、庭から居間の障子をいきなり開けて土足でずかずか入ってきたあげく、わが夕餉を|貪《むさぼ》り食うとは……とんだ正義の侍ではないか!」
侍「違う!」
悪代官「物事は結果が大事だ! 結果から見てみるがよい、どこが違うのだ!」
侍「……うーん」
悪代官「もういい! おぬし、その辺ので構わぬからイワシ買ってこい。弁償だ!」
侍「えっ」
悪代官「わしがどれほどイワシを楽しみにしておったか! おぬしにはわかるまい!!」
侍「……一応謝っておく。すまぬ」
悪代官「一応とはなんだ! 謝って済むなら、同心はいらぬ! (少々駄々っ子じみてくる)買ってこいったら買ってこい! 大きいやつでないと泣く!」
侍「でも、もう夜であるし……魚屋も閉まっておるから、明日の朝一番に届けるということでよいであろう」
悪代官「だめ! 全然だめ! おぬしの着物の趣味と同じくらいだめ!」
侍「えっ、これ一応おめかし用で……」
悪代官「いまどき、|般若面《はんにゃめん》散らしの染付など、悪趣味以外の何物でもないわ!! 最悪!!」
侍「えっ」
悪代官「(半泣き)とにかく、おぬしとは絶交! もう絶対遊ばぬ!」
侍「絶交って……」
悪代官「イワシ持ってくるまでもう会ってはやらぬ!」
侍「(ぼやく)女みたいなこと言うんだな、悪代官のくせに」
悪代官「者ども! こやつをつまみだせ!!」
肆. 豪商屋敷の夜
/*時代劇風にやや大げさに演じてください。*/
/*登場人物3名 筑前屋→悪そうなおじさん おかみさん→気の強そうな熟女 侍→正義厨の若者*/
筑前屋「ふへへへへへ、たっぷりかわいがってやるからのう……」
女「お許しください!」
筑前屋「さあさあ、おとなしくおし……恨むんならお前のおとっつぁんを恨むんだね」
女「きゃあああああ! どなたか! 助けてえええ!」
侍「待て~い!!」
/*可能ならならばSE:襖がスパーンと開く音*/
侍「筑前屋作左衛門《ちくぜんやさくざえもん》! 情け深き篤志家《とくしか》を装いながら、町娘をかどわかし手籠《てご》めにしようとは、神をも畏れぬ悪行《あくぎょう》である! 日本国中大小神祇《にっぽんこくじゅうだいしょうじんぎ》に変わって成敗してくれる!」
筑前屋「えっ?」
女「(殺意をこめて、侍に)は?」
侍「娘御《むすめご》よ、ここは拙者に任せ、疾《と》く逃げるがよい!」
女「何よあんた! 人んちに夜中いきなり土足で踏み込んで! |町方《まちかた》呼ぶからね!」
侍「え、……待って、何その反応?」
女「押し込み強盗に待ってと言われて待つ馬鹿がいるもんかい」
侍「いや、そういうんじゃなくて、おぬしを助けに来たのだぞ」
女「誰が頼んだっつーのよ」
筑前屋「(小声で)やめようよ、お清《せい》ちゃん……こういう手合いは刺激したら危ないよ」
女「(やめずに侍に詰め寄り)あんたまさか、町方にお縄になっても、お白州《しらす》ですぐ無罪放免されちゃう系? それか無敵の人ってやつ?」
筑前屋「そういうこと言っちゃだめだよ! いろいろ引っかかっちゃうよ!」
侍「何に?」
筑前屋「あ、いえ、なんでもござりませぬ」
女「作《さく》ちゃん、こんな奴に、何かしこまってんのさ」
侍「あっ!!……よく見たらこの女、おばちゃんじゃん……」
女「ああそうさ、おばちゃんで悪かったね!」
侍「ひゃあ……町娘コスきっつ」
筑前屋「お……おぬし、わしのお清ちゃんに無礼ではないか!」
女「(優しく)作ちゃん、いいんだよ……おばちゃんなのはほんとだもん」
筑前屋「だって! こいつわしの大事なお清ちゃんになめたこと言ってるよ? こんなに可愛くて似合ってるのに!」
女「いつも大事にしてくれてありがと……あたし、そんな作ちゃんが大好きだよ」
筑前屋「(ほろりと)お清ちゃん……」
侍「あのー、ちょっといいかな……おぬしら、なんか、顔見知りっていうか……親しそうなんだけど、もしかして付き合ってんの?」
女「あんた、何寝ぼけたこと言ってんの? あたしは筑前屋作左衛門のれっきとしたおかみさんだよ?」
筑前屋「そうだとも! わしの自慢の女房だ」
侍「え? じゃあ、さっき助けて~とか言ってたのは?」
女「あんたも頭悪いね。そういうプレイだったんだよ!」
侍「はい?」
女「聞こえなかったのかい?! プ・レ・イ!」
筑前屋「お清ちゃん、恥ずかしいよ……もうやめよう? ね?」
女「いいえ、やめないよ! このひとはね! 夫婦《めおと》になって十八年、おとなしくて優しくて、でもあたしに遠慮があるのを感じてたんだよ! 最近になって、あたしに町娘のおべべ着て、こういう風に悲鳴上げてほしいって、びくびくしながら打ち明けてくれたとき、あたしゃ本当にうれしかったんだからね!」
筑前屋「もうヤダ、恥ずかしくておてんとうさまに顔向けできない……」
侍「え? 金なら腐るほどあるのであろう? 手垢にまみれたおばちゃんではなく、その辺の若い子に金握らせてやればよいではないか」
女「何言ってんのあんた! ぶっとばすよ? そんなに命を粗末にしたいのかい?」
筑前屋「わしはお清ちゃんがいいんだよぅ……お清ちゃんじゃなきゃ嫌だ」
女「(ほろりと)作ちゃん……」
侍「えーと……もう帰っていいかな?」
女「待ちな! 人んちに夜中に押し込んできて、ただで帰ろうってのかい? 町方呼ぶから」
侍「あ、町方はいろいろ面倒なんで勘弁してください。お詫びにこれ置いていきますから」
筑前屋「般若の面? なんか呪われそう……」
侍「これ、すっごく由緒《ゆいしょ》があるやつで……これでお納めください」
女「(被せ気味に)由緒も甘藷《かんしょ》もあるもんかい、このすっとこどっこい!」
筑前屋「お清ちゃん、町方が来ると時間くうからさ、このまま帰ってもらったほうがいいんだけど」
女「だってこんな狼藉《ろうぜき》、許せないじゃないか」
筑前屋「わし、それより続きがしたい……」
女「さ……作ちゃんがそういうなら、それでいいけどさ……(侍に向き直り)ここは作ちゃんに免じて帰らせてやるけど、今度こういう真似したら、町方呼ぶ前にあたしがぶっとばすからね」
筑前屋「お侍さん、うちのお清ちゃん、強いからね? その辺のお侍なぞ、ちょちょいのちょいでぶっとばすからね? 同心や岡《おか》っ引《ぴ》きの人のほうが断然優しいからね」
侍「あっ、はい。|左様《さよう》ならば、これにて」
女「ちょっと! その気色悪いお面は持って帰りな! それから、あんた、あたしたちに何か言うことはないのかい?」
侍「え?」
女「しつけがなってないねえ! 謝れっつってんだよ」
侍「……ごめんなさい」
筑前屋「どこで手に入れた情報でここに来たか知らないけど、これに懲《こ》りて、ガセネタに踊らされないように気を付けるんだよ?」
――たぶんつづく