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2000字未満の台本集 

 

 

ポッキーの日 

/*登場人物A・Bは男女その他、どのように組み合わせていただいてもOKです。アドリブ上等です*/
/*性別の組み合わせを適当に変えていただいた際、人称や語尾を女性・男性・オネエ風などに変更していただいても構いません*/
/*SEは、入れても入れなくてもOKです*/

 

A「あのさ」

 

B「うん」

 

A「今日、11月11日だよ」

 

B「うん」

 

A「何の日だか知ってるよね」

 

B「ああ、専務の現地視察でしょ? さっき終わったやつ」

 

A「それじゃなくて! ほらこれ」

 

B「あ、ポッキーの日か」

 

A「ポッキーゲームやろう」/*紙パッケージを開ける音*/

 

B「なんで?」

 

A「何ででも! 正月に雑煮、土用にうなぎ、冬至にカボチャ食うのと同じだから! 縁起物だから!」/*ア

ルミ包装を開ける音*/

 

B「縁起物……かなあ」

 

A「つべこべ言うな! ほらやるぞ!」/*もごもご*/

 

B「やだよ」

 

A「なんで?」

 

B「だって相手がお前だし」

 

A「やろうって! 別に俺がしたいんじゃない、これやれば来年の11月11日まで無病息災でいられるからなんだ!」

 

B「そういう縁起かつぎはしないんで。やりたくないならやらなきゃいいじゃん。こっちもやりたくないって言ってんだしさ」

 

A「……くっ」

 

B「くっ、じゃないって。そんなにやりたきゃほかを当んなよ」

 

A「皆に断られた」

 

B「まあそうだろう……って?! 皆に頼んだって?! 馬鹿じゃね?!」

 

A「ポッキーゲーム一緒にやって下さい、お願いします」/*土下座*/

 

B「土下座……?! もう……! いーやーだ!! 必死すぎてキモいよ」

 

A「お願いです、先っぽだけでいいから!」

 

B「それ聞くとさらに嫌になった」

 

  ――終劇。
 

おままごと 

/*雰囲気的に藤野・斉木は中年男性、町田は新人男性もしくは女性という感じでお願いします*/
/*作者とては、藤野はインテリヤクザ風で知的な口調ながら変人なタイプ、斉木は熱血系の現場重視タイプ、町田は都会育ちの常識人というイメージですが、それにこだわらずご自由に演じてください*/
/*しかし、いいトシした大人と新人がわちゃわちゃしてさえいればいいので、男女その他性別やジェンダー風言い回しはご自由にアレンジしてくださいませ*/

藤野《ふじの》 「おい、幼馴染の私がわざわざ来てやったぞ! |斉木《さいき》ぃ!」 
 
斉木 「チッ……忙しいっつーのに……」 
 
町田 「あっ、こんにちは藤野さん! どうぞこちらへお掛け下さい! コーヒーでよろしいですか?」

藤野「いや、リーフのダージリンで」
 
斉木 「町田、こんなやつ、そんなにもてなさなくていいぞ」
 
町田 「(小声で)課長、藤野さんは今度の取引先のCEOなんですからもっと……」
 
斉木 「CEOだろうが何だろうが、構ってくれさえすりゃ何でもいいんだよこいつは」 
 
藤野 「ご挨拶だな、斉木ぃ」 
 
斉木 「で、今日は何の用だ」 

藤野 「遊ぼう」 
 
斉木 「今俺は忙しいんだっつーの。見りゃわかるだろう」
 
藤野 「あるぇえええ? この私を|無碍《むげ》にしちゃっていいのかなぁ?」 
 
町田 「(小声)課長! 藤野さんは取引先の……」 
 
斉木 「うるさい、わかってる! ええい、藤野、今日は何して遊ぶんだ」 
 
藤野 「社会の最小単位シミュレーション『ままごと』だ」 
 
斉木 「離婚して家庭が恋しくなったか」
 
藤野 「いやせいせいしてる。あいつ私の遊びにつきあってくれなかったくせに、よその男と遊んだし」 
 
町田 「(さえぎるように、うわずる声で)あっ、あのっ、おままごとって配役はどうなんですか?」
 
藤野 「今日はな、町田君が夫、斉木が妻、私が間男で|爛《ただ》れた不倫の泥沼をだな……」 
 
町田 「(被せ気味に)えっ僕もですか?!」 
 
斉木 「奥さん|有責《ゆうせき》で離婚したくせに、えぐいなー」
 
藤野 「いいじゃん、面白ければ」
 
町田 「それってままごとなんですか? 面白いんですか? 
 
藤野 「ご家庭事情のシミュレーションなんだからちゃんとしたままごとだし、私個人は非常に面白い」
 
斉木 「仕方ねえなあ……おい、町田、やるぞ」
 
町田 「やるんですか?!」
 
斉木 「こいつ、遊びにつきあわないと、あとで弁護士立てて契約にいちゃもんつけてくるだろうが! さくっと遊んでやってさくっと追い返すぞ!」
 
町田 「はあ……」
 
斉木 「町田、やるからにはちゃんとやるんだぞ、こら。じゃあ行くぞ」

****************

斉木 「(3秒ほど間をおいて、深刻そうに)子どもができたぜ…… 
 
藤野 「(めんどくさそうに)え?! 子ども? ……本当に私の子なのか?」 
 
町田 「(戸惑った感じで、小声)え? もうおままごと、始まってる感じ?

斉木 「(町田を無視)お前の子どもだ……俺、この歳だしさ……(泣きそうに)産みたいんだ」 
 
町田 「(小声)課長、なんで女性役なのに俺って言っちゃってんですか?!」
 
藤野 「(町田を無視、冷たく)……馬鹿言うな」 
 
斉木 「(泣く)旦那には絶対ばれないようにするから!」 
 
藤野 「町田君の子として育てる気か?」 
 
町田 「(小声で)え? そこ僕の本名入れるんですか」 
 
斉木 「(町田を無視)……おう……だからおろせなんて言わないでくれ! な?!」 
 
町田 「これってままごと?! ままごとなんですか?! 
​****************

 
藤野 「(3秒ほど間を置き、ため息をついて)……おいおい、ちゃんとやってくれよ、町田くーん。楽しいままごとがぶち壊しだよー」
 
斉木 「町田! やると決めたからには中途半端はいかんぞ」
 
町田 「(納得していない感じで)は、はい……」
 
藤野 「ところで斉木、今思ったんだけどな、ここはお前に上の子がいたらもっとドラマチックじゃないか?」 
 
斉木 「お、いいな、それ。不倫にかまけた母親にネグレクトされて歪んでいく子ってやつだな」 
 
藤野 「それだ! 冴えてるじゃないか斉木!」 
 
斉木 「よし、町田! ちょっと吉井呼んで来い」 
 
町田 「え、ええ~?!」 

 

 

  ――終劇。
 

王様ゲーム 

/*登場人物は男女その他、どのように組み合わせていただいてもOKです。アドリブ上等です*/
/*性別の組み合わせを適当に変えていただいた際、人称や語尾を女性・男性・オネエ風などに変更していただいても構いません*/
/*作者のイメージとしては、高田→怖いもの知らずのあほの子 飯山課長→小市民+仕事には一生懸命 佐々木主任→普段は上品で仕事ができ人望が厚いタイプ*/
/*もし可能であれば、ep中ずっとSEで居酒屋のがやがやを小さく入れていただけると作者が喜びます。場面により小さくしたり大きくしたりするのはお任せいたします。*/
/*全員、という指定箇所は、可能であれば5~8人くらいに感じられる多重録音か、音声素材でもOKです*/

 

 

全員「王様だーれだ!」

高田「あ、ハイッ!私! 私、王様!」

 

飯山「ええ~高田かぁ……俺、すんげー命令考えてたのにー」

 

高田「飯山課長は私たちにしょっちゅう残業とか出張とか命令してるじゃないですかぁ。今日は私が王様! いぇーい」

 

佐々木「はいはい、じゃあ王様、ご命令をなんなりと」(かなり酔っている)

 

高田「はーい! じゃあねえ」(にやついてここで2秒ほど溜める)

 

高田「5番の人はぁ、2番の人にいつも思っていることを正直に言う! つまんないこと言ったら死刑」

 

飯山「高田、つまんないことってどんなの?」

 

高田「高田とか呼んじゃダメ! 今、余は王様だから! はい、5番の臣民よ、立つがよい!」

 

佐々木「……はい」(かなり酔っている)

 

高田「じゃあ佐々木主任が5番ねー! じゃあ2番の我が国民も立って~」

 

飯山「えっ……俺2番だけど……? えぇ?」

 

高田「はいはい飯山課長ねー! さっさとほら、二人ともこっちにきて向き合って」

 

飯山「えっ」

 

高田「はい、5番の臣民よ、言いたいことを2番に言うがよい。なぜなら、王様の命令はぁ?」

 

飯山と佐々木を除く全員「ぜったーーーい!!」

 

************
/*もやもやとしたSE*/
飯山(心中の独白)「あーやだなー……佐々木、俺の悪口言ってんの聞いちまったんだよなー」
飯山(心中の独白)「仕事が遅いとか食いもんや服の趣味とか、そういうとこまでねちっこく言ってたんだよな……絶対あいつ俺のこと嫌いだし」
飯山(心中の独白)「皆の前で何言われるかマジ怖ええ……でもここは余裕を見せないと……」
/*もやもやとしたSE終了*/
************

 

佐々木「あの、王様、ちょっと勢い酒、いただいてもいいですか?」

 

高田「イイヨイイヨ~」

 

飯山「げっ!! それバカルディ151のストレート……」

 

/*グラスに酒を注ぐ音→飲み干す音→勢いよくテーブルに空のグラスを置く音*/

 

飯山「佐々木、目が据わってるよ? 大丈夫?」(ビビっているのを押し隠すように)

 

佐々木「大丈夫です」(かなり酔っている)

 

佐々木「じゃあ今から言わせてもらいますけど!」

 

飯山「お、……おう、俺も一応管理職の端くれ、言いたいことがあれば受けいれる」

 

佐々木「…………本当ですね?」

 

飯山「う、うん……死ねとか会社辞めろとか、そういうんじゃなかったら」

 

佐々木「そんなこと……言うわけないですよ」
 

/*5秒ほど溜める*/
 

佐々木「……好きです」
 

/*3秒ほど溜める*/
 

佐々木「好きなんです……飯山課長」(控えめに泣きだす)

 

飯山「あっ、うん、俺も佐々木好きだけど?」(ビビりきっているのを押し隠すように)

 

佐々木「ちげーよ!」(被せ気味に怒鳴ってテーブルを叩く)

 

佐々木「ちげーんだよ馬鹿!じゃあ聞くけどあんたどういう風に私のこと好きなんだよ? え?」(泣きギレ)

 

飯山「いや……その……頼りになるなぁって……えっと、すみません」(隠しきれないビビり)

 

佐々木「謝んじゃねえよ惨めになんだろうが! 頼りになるんなら頼れよ馬鹿! もっともっと頼れよ! 独りで何もかも背負って、カッコつけんじゃねえよ! カッコいいじゃんかよ、ちくしょー!」

 

飯山「……あ、今俺のこと馬鹿って言った?」(ちょっと威勢を取り戻す)

 

佐々木「ああ言ったさ! つか今の台詞の趣旨、あんたぜんっぜん聞いてなかったんだな?!」

 

飯山「ちょっと待て、じゃあ俺も言わせてもらうぞ! お前、昨日給湯室で俺の悪口言ってただろ! シャツがいつも同じでみっともないとか、肉ばっか食って脂ぎってるとか!」

 

佐々木「悪口じゃない!」

 

高田「ふはははははは……5番はのぅ、2番の悪口を一通り言った後、いつも『でも好き……しんどい……』で締めくくるのじゃよ。聞こえてないと思うておるじゃろうが知らん奴はおらん。っていうかそろそろウザい」

 

佐々木「ウザくて悪かったな!」

 

飯山「ってことはこの王様ゲームは八百長で、俺は嵌められたってことか?」

 

高田「嵌められたなどと、王に向かって不敬であるぞ!」

 

全員「そうだそうだ!」

 

高田「のう、2番よ。5番の臣民は2番のQOLをいつも気にしておるのじゃ……昨日だって、5番は2番に渡そうとお手製弁当を持ってきていたのであるぞ」(しんみり)

 

飯山「うわぁ…… 重っ」

 

佐々木「……だって、飯山課長のためにできることってそういうことしかないじゃん……」(泣く)

 

飯山「仕事真面目にやってくれるだけで充分だって!」

 

佐々木「あんたのそういうとこがだめなんだよ!……いやだめじゃないけど………むしろ……」

 

高田「勇気が出なくて渡せなかったハライセで5番の悪口を言いながら弁当を給湯室のゴミ箱に叩きつけようとしていたのを余がおいしく頂いた。5番は良き家庭人になるであろう」

 

飯山「……なんか……カオスだな」

 

高田「天空の城が嵐の中にあるように、愛は混沌の中にこそあるのじゃ!」

 

飯山「意味が分からんのは俺だけなんだろうか……」

 

高田「考えるな、感じろ、なのじゃ。ところで2番よ、5番とこれからどうするつもりじゃ」

 

飯山「こっちがどうすればいいんか聞きたいわ!」

 

佐々木「……帰る……もう帰る……」(ぐすぐす泣いている)

 

高田「2番よ、今夜はもう5番を送って行ってやるがよい。それこそ送り狼推奨ってことで」

 

飯山「お前ら、覚えてろ」

 

高田「うむ一言一句覚えておる。退位後も余は今夜のことは忘れぬ」

 

飯山「くそっ」

 

高田「くそなんて下品なことを申すな。うんこと申せ」

 

飯山「もうやってられん!……ほら、佐々木!帰るぞ! ほら立て!」

 

佐々木「立てない……」

 

飯山「しゃんとしろ! 肩かしてやるから! よいしょ!」

 

佐々木「課長……好きです」

 

飯山「まだ言うか」

 

佐々木「飯山課長にこの気持ち伝えられたから……もうこの世に怖いものはない……」

 

全員「ひゅーひゅー!」

 

高田「飯山課長も佐々木主任もお幸せに!」

 

佐々木「……課長に肩貸してもらってるだけで……もうね……死んでもいい……あったかい……このまま死にたい」(虚ろ)

 

飯山「……佐々木もひっくるめてお前ら、マジで覚えてろ」

  ――終劇。

 

 

あずきをくんくんする話 

/*登場人物はデフォルトで男性2人ですが、男女その他、どのように組み合わせていただいてもOKです。アドリブ上等です*/
/*性別の組み合わせを適当に変えていただいた際、人称や語尾を女性・男性・オネエ風などに変更していただいても構いません*/
/*作者のイメージとしては、柄の悪い男→残念なちんぴら風 おにいさん→普通のお兄さん*/
(方言はいろんなところのものをミックスした「なんちゃって方言」なので、アクセントや語調など、ご自由にお読みください)

/*可能ならSE:足音→人にぶつかる音*/
お兄さん「あっ、サーセン」(そそくさと)

柄の悪い男「おい、兄ちゃん……人にぶつかっといてなんやその態度は? あぁ?!」

 

お兄さん「いや、だからサーセンって……」

 

柄の悪い男「はぁ? だからやないやろ?! ちょっと礼儀っちゅうもんを教えてやらにゃいかんなぁ?」

 

お兄さん「いやほんとサーセンって……」

 

柄の悪い男「まずちゃんと俺の方向けやごらぁ!」

 

お兄さん「は、はい……」

 

柄の悪い男「目ぇそらすなや! まっすぐ立たんかぃ!!」

 

お兄さん「はい」

 

柄の悪い男「りぴーとあふたーみー!『すみません』」(教材のように美しい発音)

 

お兄さん「りぴーとあふたーみー……」(つい吹き出す)

 

柄の悪い男「兄ちゃんそれが人にものを習う態度なんかワレェ!」

 

お兄さん「……ごめんなさい」(小声)

 

柄の悪い男「じゃあもう一回じゃあ! 真面目にやりや、まったく……りぴーとあふたーみー!『すみません』」(再度、美しい発音)

 

お兄さん「すみません」(美しい発音)

 

柄の悪い男「よし、そして背筋を伸ばして腰から45度前に倒してお辞儀や。これが謝罪のスタンダードやこんくらい覚えとけあほんだらあ!」

 

お兄さん「こうですか」

 

柄の悪い男「悪うない。悪うはないけど、うーん、道端で45度は不自然やな。そうやなぁ……よし、15度に変更や。これはライトな挨拶の角度やぞ」

 

お兄さん「こうですか」

 

柄の悪い男「それでええわ。なんやお前、やりゃぁできるやないか」

 

お兄さん「ええ、まあ」

 

柄の悪い男「そこは『ご指導の賜物です』くらい言っとけばいいんじゃあぼけがぁ!」

 

お兄さん「すみません」(美しい発音)

 

柄の悪い男「それでよーーし!」

 

お兄さん「じゃあ俺、もう行きますんで」

 

柄の悪い男「ちょい待ち兄ちゃん。お前なかなか見どころあるやないか」

 

お兄さん「いえそんなことは」

 

柄の悪い男「ちょっといいとこ行って、俺と遊ぼうや……こいつで」

 

お兄さん「えっ?! これ……」

 

柄の悪い男「上《じょう》もんやで、これは……兄ちゃん、やったことあるか?」

 

お兄さん「い、いいえ」

 

柄の悪い男「ちょっとだけ吸うてみい……天国みたいな気分になるでぇ?」

 

お兄さん「いやいいです!」

 

柄の悪い男「嗅げゆうとるんじゃぶちかますぞこらぁ!」

 

お兄さん「は、はい」(すごく嫌そうに)

 

お兄さん「……?」(すんすん)

 

お兄さん「……????」(すんすんすんすん)

 

お兄さん「このお手玉、小豆《あずき》の匂いする!」
/*可能ならSE:しゃらしゃらとお手玉っぽい音*/

 

柄の悪い男「へっ……いい匂いやろがぁ! 北海道産有機栽培大納言やぞ」

 

お兄さん「お祖母ちゃんちを思い出しました。遊びに行くと、よくぜんざいとか作ってくれて……」(しんみり)

 

柄の悪い男「ガワもなぁ、|正絹菊菱綸子《しょうけんきくびしりんず》のはぎれを夜なべして縫うたんやぞ」

 

お兄さん「誰がですか」

 

柄の悪い男「俺以外誰がおるんじゃボケ!」

 

お兄さん「すみません」(美しい発音)

 

お兄さん「でも一つだけ聞いていいですか」(何となく柄の悪い男と話すのに慣れてきた感じ)

 

柄の悪い男「おう」

 

お兄さん「なんでお手玉持ち歩いてるんですか?」

 

柄の悪い男「そんなことも知らんのかどあほが! これはな! 道で泣いとる赤ん坊に使って見せて無理やり黙らせるのに使うんじゃぁ! デイサービスのお年寄りたちを懐かしがらせて泣かすんじゃぁ!」

 

お兄さん「黙らせたり泣かせたり忙しいですね」(ごく小声で)

 

柄の悪い男「あとな、組のもんに見せると箔がつくんじゃぁ!」

 

お兄さん「それってさくら組とかばら組の園児とかですか」

 

柄の悪い男「兄ちゃんなになめ腐ったこといいよんじゃわれぇ」

 

お兄さん「すみません」(美しい発音)

 

柄の悪い男「どういたしまして」(美しい発音)

 

柄の悪い男「お前、なに植物を組名にさらしとるんじゃ、時代は鳥類、ひよこ組のよいこたちじゃぁ!!」

 

お兄さん「あー……ひよこ組可愛いですね」

 

柄の悪い男「じゃろーが! それに今持っとるんはこれだけやないで……見いやこれ。カタギさんには普通見せんのやけども……」(にやり)
/*可能ならSE:じゃらっと堅いものが触れ合う音*/

 

柄の悪い男「まあ特別に、触ってもええで……おはじきや」

 

 ――終劇。

 

カクテルバー

 

/*登場人物は男女その他、どのように組み合わせていただいてもOKです。アドリブ上等です*/
/*性別の組み合わせを適当に変えていただいた際、人称や語尾を女性・男性・オネエ風などに変更していただいても構いません*/
/*もし可能であれば、ep中ずっとSEでオサレなバーに流れているようなジャズを流してください*/

 


バーテンダー「お飲物のおかわりはいかがですか?」

 

客「ありがとう、結構だ」

/*可能であれば、ここにグラスの中の氷の音*/


バーテンダー「(冷やし甘酒一杯でもう一時間以上粘ってる……でもなんで毎回、うちみたいなオーセンティックなカクテルバーで甘酒オーダーするんだろうな、この客)」

 

客「どうしたらいいんだろう……」(頭抱え

 

バーテンダー「はい????」

 

客「さっき……妻にものすごく怒られた」

 

バーテンダー「大変でしたね」

 

客「壁に私と妻の相合傘をマジックで書いたらヒステリックにキレられた」

 

バーテンダー「あー……」

 

客「どうしたらいい?」

 

バーテンダー「まず謝って落書きを消して、仲直りしては? マジック落とし液、ホームセンターとかで売ってますし」

 

客「だって私は真剣に『LOVEフォーエバー』なつもりで相合傘書いたし! 遊びじゃないし! 謝ったら自分の正当性を枉げることになるじゃないか! 消すなんてもっての他だ! いつだって私は正しいんだから! なのにうちの奥さんは私をバカ呼ばわりなんだ」
/*可能であれば、これ以降、適当に自分の正当性をわいわい喋って音量を下げ、次のバーテンダーの独白を被せてください*/

 

バーテンダー「(……この人の奥さん、大変だなあ)」

  ――終劇。


 

パーティの後で

 

 登場人物(ただし、名前・性別・方言変換はご自由に)
  椎山…傘を差した、結婚披露宴帰りの若い男
  山内…終始元気のない、結婚披露宴帰りの若い女
 
〇往来・雨音・傘に当たる雨の音。
    傘を差した男、濡れて歩いていた女に追いつき傘をさしかける。
 
椎山「さっき、披露宴にいた人ですよね。たしか|義弘《よしひろ》と同じ課の山内さん」


山内「(警戒するように)どちら様ですか」
 

椎山「|椎山《しいやま》っていいます。新郎友人代表でスピーチしてたでしょ」
 

山内「……何か御用ですか」
 

椎山「いや、傘持ってないのかなって。これどうぞ」
 

山内「(そっけなく)タクシーに乗るんで結構です」
 

椎山「タクシーが来るまで時間かかりそうだし、あんまり濡れてると乗車拒否されますよ。返さなくてもいいんで、使ってください」

山内「(やや間をおいて、小声で)ほっといてもらえませんか」


椎山「え?」
 

山内「(少々涙声)ウザいんで、あっち行ってもらえます?」

    間。

 

椎山「ウザいでしょうけど着物って濡れると大変なんでしょ? とにかく傘どうぞ」
 

山内「余計なお世話です」
 

椎山「あ、下心とかじゃないですよ。ただ、俺もあなたと同じ気分なんで、声を掛けたくなって」
 

山内「何のことですか」

    間。

 

椎山「(自虐的に)俺、さっきの新婦に義弘と二股掛けられて、切り捨てられたんですよ。招待状もらうまで気が付かなくて、義弘からスピーチ頼まれたときも、ほんと涙目でね……笑えません?」
 

山内「え」

    長めの間。

 

椎山「(静かに)あなたのことも義弘から聞いてました。あいつにとても尽くしてくださってたとか」

 

    山内、ここから終劇まで嗚咽。
   
椎山「(少し間をおいて慰めるように)俺も、あなたも、くそ野郎とくそ女に引っ掛かってたってことなんですよ。あいつらはお似合いです」

椎山「(少し間をおいて、何かを振り切るように)お節介すみません。でも傘は使ってください。じゃあ」

   

 ――終劇。

旅のおみやげ

男「寒いだろ。これ、羽織ってろ」

 

女「ありがと。秋も終わりね」

 

男「そう言えば駅前にもクリスマスツリーが飾られてたな」

 

女「そっか。もうそんな時期なんだ。今年も見たかったな」

 

男「見に行くか」

 

女「(力なく笑って)もう無理だから」

 

男「無理じゃない。さあ、行こう」

 

女「無茶言わないでよ」

 

男「車椅子に乗れば大丈夫だろう?」

 

女「(茶化して)なんでそんなに見せたがるの? 冥土の土産ってこと?」

 

男「(暗く)そんな言い方はやめろ。さあ、持ち上げるぞ。(力を込めて)よっ」

 

女「(呆れたように)昔っから強引よねえ、あなたって」

 

男「まわりが優柔不断なだけだろ」

 

女「重いでしょ」

 

男「(寂しそうに)重くない」

 

女「落とさないでよ?」

 

男「落とすもんか」

 

女「ふふ……(間をおいて)どうしたの? 車椅子、そこにあるでしょ? 下ろさないの?」

 

男「(間。ぼそっと)こうしてると……○○(任意の女性名)の体、温かいな」

 

女「(弱々しく、精一杯冗談めかして)来月には温かくなくなるわ」

 

男「(間をおいて、悲しそうに)やめてくれ」

 

女「(間のあと、寂しげにぽつりと)私、一人で旅立つのがまだ怖いの。だからあなたにそういうこと言ってしまうんだわ」

 

男「(大きなため息)」

 

女「甘えてごめんなさい」

 

男「(しばらく黙ったあと、耐えきれずに嗚咽)」

 

女「……ごめんなさい」

 

――終劇。

願い事とクレープ 

​ 登場人物(ただし、名前・性別・方言変換はご自由に)

  男…二十代前半の若い男。暗い。若干ウエメセ。

  女…男と同い年。世話焼き好き。
 

〇本文

男「無条件に一つ願いが叶うとしたら何にする?」

 

女「ああ、よくある質問ね! 私いつもこう答えてるの。(得意そうに)死ぬまで何度でも願い事をかなえてって。そしたら一つだけじゃなくて好きなだけ願いが叶うじゃない」

 

男「よくあるバッドエンドルートだな」

 

女「困ったことになりそうだったら、それを何とかするお願い事をすればいいのよ」

 

男「頭悪いやつは『フシギナチカラ』で事態を糊塗ことしないほうがいいと思う」

 

女「じゃああなたは何を願うの」

 

男「何も願わない」

 

女「えーつまんない」

 

男「何人もの専門家の目を通して制定されている法令でさえ抜け道があるんだ。適当に考えた願いが聞き届けられると、予想できなかった副反応で誰かが必ず傷つく。かといって願い事を多方面からシミュレーションして検証するなんてめんどくさくて無理だし」

 

女「ふーん……じゃあなんで私に訊いたのよ」

 

男「素直な人間が素直に答えるのを見ると気持ちが落ち着くから」

 

女「(ふざけたように怒って)私をバカだって言いたいの?」

 

男「いいや。社会は素直な人間が多いほうがいいんだ」

 

女「やっぱりバカだって思ってるってことでしょ」

 

男「いや、バカじゃない。そういう人間のほうが、きっと社会に愛されるんだと思う」

 

女「社会はともかく、あなたは私を見下してるのよね?」

 

男「そうでもない。見上げてもいないし、見下してもいない」

 

女「あなたって、ほんとにしれーっとしてて、はっきりしなくて、手ごたえがないのよね」

 

男「俺はそれくらいがちょうどいいんだ」

 

女「そうよねえ……にこにこして愛想のいいあなたってあんまり想像つかないもん。とりあえず、クレープ食べに行かない? おいしい店見つけたんだけど」

 

男「は? クレープ?」

 

女「(チラシをぴらぴらさせながら)クーポンも道で配ってたの。ね、行こうよ。ほんとにおいしいんだって」

 

男「おいしさはそれぞれのクオリアの問題なんだけど」

 

女「うっとうしいこと言わないの。クレープ嫌いなの?」

 

男「いや……好きだけど」

 

女「だったら黙ってついてくりゃいいのよ」

 

男「……うーん……俺なんか誘って楽しい?」

 

女「まあ、そうね……考え方が違い過ぎるから、楽しいかって言われるとよくわかんないけど、面白いとは思うわ」

 

男「そっか、面白いのか……確かに俺も面白くないわけじゃないけど……(十分間をおいて)あっ!!」

 

女「何よ」

 

男「不思議だ……いま、願い事が思いつきそうな気がした」

 

女「へえ。あなたの願い事、じっくり聞こうじゃない。クレープ食べながら」

 

 

               ――終劇。

ユメミヅキ 

登場人物(二人とも性別、名前は任意。台詞改変不可、ただし方言への改変のみ可)

 A:育ちが良さそうで真面目

 B:ツンデレ気味。冗談好きな雰囲気

 

〇本文

 

  箸を置く音

 

A「ご馳走さまでした」

 

B「(得意そうに)ふふふ、ご馳走してやったよ」

 

A「鰆さわらめし、めちゃくちゃおいしかった」

 

B「(得意そうに)そうだろうそうだろう。料亭の娘/息子なめんな」

 

A「なめてないって。この半年、何作ってもおいしくて、感動してるよ」

 

B「半年かあ……そういえば、Aがうちに来るようになって、半年なんだよなあ」

 

A「……(しんみりと)いつもご馳走になって本当にありがたかった」

 

B「前は、どんよりした顔で半額弁当ばっか買ってたよなあ、Aって」

 

A「うん」

 

B「隣人のよしみで肉じゃが分けてやったら、引くほど大喜びしてさ。懐かしいなあ」

 

A「うん、本当に感謝してるよ。お世話になりっぱなしで申し訳ない」

 

B「いいって。Aはよくケーキとかプリンとか買ってきてくれてたじゃん? けっこういいやつをさ」

 

A「いつもご飯に呼んでくれるからお礼に、と思って」

 

B「Aがそんなふうに律儀でいいやつだから、こうやって夕飯振る舞うようになったんだよ。今日持ってきたやつなんか、エリィのあまおうロールじゃん。数

量限定なのになんで買えたんだよ」

 

A「運が良かったんだ」

 

B「ふーん、運ねえ」

 

A「うん」

 

B「だじゃれ?」

 

A「違うよ」

 

B「おもろないわー」

 

A「違うって」

 

B「じゃあそろそろ、食後のロールケーキ、出すぞー」

 

  食器の音、お茶を淹れる音

 

B「牛乳入れる?」

 

A「(ため息をつきながら)……今日はストレートで」

 

B「了解。うおー、ふわっふわ! うんまそー!!」

 

A「(ため息)うん、おいしそうだね」

 

B「あ、なんかテンション低くない? 何か言いたいことでもあんの?」

 

A「その……この半年、楽しかったなって」

 

B「うん、楽しかった」

 

A「こんな時間がこれからもずっと続けばいいと思わない?」

 

B「そうも言ってらんないよ、もうすぐお互い引っ越しちまうんだから」

 

A「(間を置いて)……今の、付き合ってくれっていう意味で言ったつもりだけど」

 

B「(間を置いてから大声で)え?」

 

A「なんでそんなに驚くんだよ」

 

B「私/俺に惚れる要素あった? いつの間にそんなことになっちゃってんの?!」

 

A「たぶん、二回目にここでご飯食べてったあたりから」

 

B「なんで?! そんな大層なもん食わしてないけど?」

 

A「いやいやご謙遜を」

 

B「謙遜じゃなくてマジで」

 

A「とにかくさ……ちゃんと考えてくれない?」

 

  三秒ほどの間

 

B「悪いけど、今、恋人募集とかしてないんだよね。4月から実家で五代目デビューだしさ、気合い入れたいんだよ」

 

A「知ってる」

 

B「Aとはさ、あと三日このまままったりしていたかったんだけど」

 

A「それも知ってた」

 

B「じゃあなんで、こんな最後になってそういうの壊すんだよ」

 

A「……(しんみりと)だってあと三日しかないって思ったらさ」

 

B「あーあ、これまでいい感じに過ごせて楽しかったのに、空気読めっつーの。なんか、変な感じになっちゃうじゃん」

 

A「……うん、ごめん」

 

B「まあ、聞かなかったことにしてやってもいいけど」

 

A「よくない」

 

B「はあ?」

 

A「(前のBの台詞に被せて)本当に、今の状態を壊してでも、言いたかったんだよ」

 

B「……(大きくため息)」

 

  五秒ほどの間

 

A「(吹っ切るように、寂しそうに)じゃあ、帰るよ。おやすみ」

 

B「ケーキは? 食ってかないの?」

 

A「いらない」

 

B「えー?」

 

A「食べてく気分じゃないから」

 

  立ち上がって廊下を歩き、玄関で靴を履く音

 

B「(ちょっとばつが悪そうに)ちょっと待った……あのさ」

 

A「ん?」

 

  間

 

B「いつか、私/俺が一人前になったらうちの店に来てよ。遠くて悪いけど」

 

A「え?」

 

B「(真面目に)私/俺、五代目としてさ、うちの看板にも、親の顔にもに泥を塗りたくないんだ」

 

A「うん」

 

B「ちっこい店のくせにって笑うかもしれないけど、本気で頑張りたいと思ってるんだよ」

 

A「うん」

 

B「(徐々に尻すぼみに)板場に立って、少しはさまになったら……返事するっての、だめかな」

 

A「それっていつ」

 

B「いつかわかんないけど、できるだけ早く……胸張って会えるときが来たら、連絡する」

 

B「うん」

 

A「待ってるから」

 

B「(照れ気味に)そんなに先じゃない……と思うからさ」

 

A「うん」

 

 間

 

B「んで、さ……(気恥ずかしそうに)ケーキ、食べてけば?」

 

A「うん」

 

            --終劇。

 

 

 

 

 

 

兄貴イン・ザ・キッチン

 

 

  〇登場人物

     兄:メシウマDK。成明なるあきという親友がいる

     妹:気が強い。どメシマズ。

  〇以下、本文



 

   SE:家の中を歩く音

 

兄「何だよ、これ……くっさ! なんかありえない臭いがすんだけど」

 

妹「チョコパウンド。あさってバレンタインデーじゃん。パウンドケーキは少し寝かしたほうがおいしいっていうし」

 

兄「あ、俺、普通のブラックサンダーとかのがいい」

 

妹「誰が兄ちゃんにあげるって言ったよ。これは成明なるあきさんの」

 

兄「……え、成明ってあの成明?」

 

妹「(ドスを利かせて)悪い?」

 

兄「悪くはないけど」

 

  SE:冷蔵庫を開け、閉める音

 

妹「これで良し! あ、そろそろ塾行かなきゃ。兄ちゃん、言っとくけど、あのケーキ食べたら殺すからね」

 

兄「誰が食うか」

 

妹「触っても殺す」

 

兄「あんなの触らんって!!」

 

妹「その言葉、忘れんなよ。行ってきます」

 

   SE:玄関のドアを開け、閉まる音

 

兄「いかんいかんいかんいかん! あんなん食わしたら成明ふつうに死ぬわ! ただでさえあいつしょっちゅう腹壊してんのに」

 

  SE:しゅばっとかっこよくエプロンをつける音

 

兄「親友も、妹の面子も守るとしたら、こうするしかない!」

 

  SE:卵を泡だて器でかき混ぜる音、ハンドミキサーの音などを適当に入れ、最後にオーブンの焼き上がり通知音

 

兄「よし! クリソツ激うまチョコパウンド完成!」

 

  SE:冷蔵庫を開け、閉める音

 

兄「すり替え終了! さて、あいつが作ったこのダークマターは、申し訳ないけど、捨てるしかねーかな……あ、そうか、仏壇の奥に供えとこ。ご先祖様が喜ぶわ……多分」

 

  SE:チーンと仏壇のリンを鳴らす音。間をおいて、玄関ドアの開く音、閉じる音

 

妹「ただいま」

 

兄「お帰り」

 

妹「触んなかったでしょうね、あたしのケーキに」

 

兄「触るわけないだろうが」

 

 

  ――終劇。

深夜のお料理番組

*登場人物

  □□・・・20代の女性。料理番組のMC。一生懸命やっているつもり

  先生・・・□□より3~5歳ほど年上の男性。料理研究家。変態。

 

*注意事項

  □□や〇〇には任意の名前を入れてください。

  方言変更可。内容の性質上、性別変更は不可。

 

*以下、本文


 

 SE:料理番組のオープニング風な曲

 

□□(MC)「今日は料理研究家の〇〇先生に豪華なおもてなし料理を教えていただきます。センセ、よろしくお願いします」

 

先生「こんばんは。今日は多くを語りませんがこの素晴らしい形状の松茸で土瓶蒸しを作ります。□□さんちょっと触ってみてください」

 

□□「触りましたよ?」

 

先生「(ちょっと息を荒く)どうですか? どんな感じですか?」

 

□□「どんな感じって、えっと、高そうだなって」

 

先生「(失望したようにいらいらして)値段とかはどうでもいいんですどうせスタッフが払うんですから! どんな触り心地とか、サイズ感とか、あるでしょう! お茶の間の皆さんにしっかり伝えなきゃ!」

 

□□「えっと、身が締まってて固いです」

 

先生「おおおおううう!! イエーーース!! それで? それで?」

 

□□「見たことないくらい大きいです……よね?」

 

先生「大きいけどさ……」

 

□□「なんで不満そうなんですか」

 

先生「見たことないくらいってことは、見たことあるんだ」

 

□□「それくらいありますよ! お店とかで」

 

先生「(皮肉っぽく)ふーん、お商売のってやつですか」

 

□□「(うざそうに)売ってあるの以外で松茸見たことあるのって、生産者さんくらいじゃないですかね? そんなことよりセンセ、お料理しましょうよ。一応カメラ回ってますから」

 

先生「(少し舌打ちしてムカつく感じで煽るように)わかりましたぁ。今日は松茸の土瓶蒸しを作りますぅ」

 

SE:料理番組風の音楽をしばらく流す

 

先生「えー、では、ここで、松茸の先っちょに練乳をたっぷりとつけます。□□さんお願いします」

 

□□「センセ、いつも『練乳はチューブじゃないとだめ、しっかりしごいて勢いよく出すのがいい』って言ってますが今日は取り皿に出してるんですか」

 

先生「練乳は松茸と非常に相性がいいのですが、この野太い松茸に、細い穴から勢いよく噴き出すチューブタイプ練乳をかけるところは、個人的に非常に見たくありませんし、なんか臭いです」

 

□□「そうなんですか」

 

先生「(力説して)とにかく、チューブタイプは松茸とは合わないです」

 

□□「(あまり深く考えないようにして)えっと…センセ、練乳、これでいいですか」

 

先生「そうですね、ではこれを、大事な松茸が傷つかないように口に入れて練乳を舐め取ります」

 

□□「はあ?!何でですか?」

 

先生「このひと手間で、オカズとしてボリューミーになるんです。ぜひ人妻のみなさんにもお勧めしたいテクニックです」

 

□□「センセがやって見せてください」

 

先生「僕がやるとたぶん死にたくなるので、女性にお願いします」

 

□□「死にたくなるんですか」

 

先生「(素で)はい、死にたくなります。僕を死なせたくなかったらお願いします」

 

□□「(嫌そうに)じゃあやりますけど……(もごもごしながら)松茸の独特な匂いと練乳……ちょっと吐きそうです」

 

先生「(はあはあしながら)いいですねぇ……いいですよぉ……上手ですよぉ□□さん……(カメラに向かって)ここでいったんCMに入ります」

 

□□「(ぺっと松茸を口から出して)あ、ちょっと! 先生! どこ行くんですか! 勝手にCM入れないでくださいよ! もう! (間をおいてからぼやいて)あいつしょっちゅうトイレ行ってるけどよぉ、…一応料理中なんだからどうにかしろよまったくよぉあれでもプロかよ、どちゃくそきめえな」

 

   間

 

先生「(やたらすっきりした感じで)ではさっそく土瓶蒸しを作っていきましょう」

 

□□「先生、ちゃんと手は洗いましたか」

 

先生「料理研究家ですからいつでもしっかり洗ってますよ」

 

□□「それならいいんですけど……あの、センセ、この材料一覧のテロップに練乳がないんですけど大丈夫ですか」

 

先生「(しれっと)そりゃそうでしょう。使いませんから」

 

□□「はあ?! じゃあさっきのは何なんですか?!」

 

先生「単なる僕の趣味です」

        

​            ――終劇。  

​​冷徹☆ちぇりーみるく

*登場人物 

偉い人・・・人なんかいくらでも消せる人。年齢・性別自由。〇〇には自由に名入れすること。性別による言い回し変更OK。

側近・・・へまをした50代くらいの熟年男性。家族を愛している

 

*以下、本文

 

場:偉い人の部屋。偉そうな調度品に囲まれ、バッハのなんか適当な曲が流れている。

 

側近「(震える声で)すべての責任はこの私にあります」

 

偉い人「その通り。事実確認はもういい」

 

側近「〇〇様……」

 

偉い人「気安く呼ぶな。私のことが気に入らないんじゃなかったのか? 随分と私の顔に泥を塗ってお楽しみだったようだが」

 

側近「……決してそんなことは」

 

偉い人「私は君の行為に失望したし、ストレスも感じた。その代償は、君でなく君の美しい細君とお嬢さんに求めてもいいな」

 

側近「それは……!! どうかお慈悲を!! 私の命で済むものなら」

 

偉い人「(被せて)50代の脂ぎったおっさんの命なんぞ要らん!!」

 

側近「どうか! どうかチャンスを!! なんでも致します!!」

 

偉い人「なんでもする、か?」

 

側近「はいっ!!」

 

偉い人「……ではチャンスをやろう」

 

側近「何なりと!」

 

偉い人「では今この場でpixivユーザーになれ」

 (※pixiv以外でも、なろう、spoon、ツイキャス、つべその他なんでもOK。ただしskebやofuse、skimaなどの金銭授受が目的のSNSは不可)

 

側近「は?」

 

偉い人「そして、漫画とイラストを投稿しろ。とびっきりファンシーでスウィートな美少女ものだ。もちろんオリジナルしか許さん」

  (※漫画とイラスト以外でも、オーディオブック、女装動画など前述のプラットフォームに合わせて変更すること。ただしバ美肉Vtuberは不可)

 

側近「は?」

 

偉い人「本日から半年で、『あなたが神か』『色彩の魔術師』云々、崇拝系タグを20種以上他のユーザーからもらえ。そしてブクマ数MAX十万オーバーとフォロワー数一万オーバーしろ」

  (※アドリブで選択した投稿プラットフォームに合わせて表現・数値を変えること)

 

側近「は?」

 

偉い人「そして二次に比較して売れ行きがかなり厳しいという評判のコミティアで一万部以上自作冊子(※オーディオブックCD、その他変更OK)を売れ。作成は業者に頼むな。完全ハウスメイドでやれ」

 

側近「は?」

 

偉い人「R18での集客は許さない。ただしSNSは自由に使って構わん。ハンネは『ときめき☆チェリーみるく』で。これ以上クッソダサい名前は思いつかんかったから、すまんがこれでやってくれ」

 

側近「は?」

 

偉い人「達成できなければ、君のご家族は……どうしようかなあ、いろいろと楽しませてもらおうか。ははははは」

 

側近「……そんな、そんなのって……あんた、鬼か!」

 

偉い人「鬼だったら、なんだ?」

 

側近「いえ、……どうかお許しくださいませ。やります……やらせてください」

 

偉い人「では、君にはこんなところで油を売っている時間はあるのかな?」

 

側近「はい、すぐに取り掛かります……失礼いたします(すごすごと退出)」

 

偉い人「(側近の背に向かって)せいぜい頑張れ! あははははは」


 

  SE:適当なジングルで時間経過を示す

 

側近「(一生けん命美少女ボイスを出しているおじさんの声で)一年後」

 

  SE:さっきのバッハの曲を流している。新聞などの紙束を床にたたきつける音

 

偉い人「あ、…あいつ、やりやがった!!」

偉い人「(怒り狂って)しかも、そっち本業にしてこっち辞めやがった!!」


 

  ――終劇。

短パンと青春

*登場人物

委員長・・JK。清濁を併せ呑みすぎ。

男子・・DK。体格・才能に恵まれつつも万事にやる気がない。

 

*場・・とある高校。クラス対抗戦中の誰もいない教室(他の生徒は屋外の熱戦に夢中)

 

*以下本文 

 

SE:教室に響いてくるの歓声、ボールなどの音。ばんと教室の机を叩く音。

 

委員長「あんたね、いい加減にしてよ? その図体は飾りなの? あんたのせいでうちのクラス敗けかかってるのよ?! ここ一番ってとこをあんたに任せたのに!」

 

男子「うるせーなあ。俺そーゆーの頼んでないしぃ。やる気満々のやつってほんとダッセーって感じぃ。俺応援要員でいいですぅ」

 

委員長「あんたもクラスの一員でしょ? ふざけんじゃないよ!」

 

男子 「(あくびしながら)だって勝たなきゃっていう目的自体、俺には無意味だしぃ」

 

委員長「最低!」

 

男子「おまえにどう思われよーと、ほんっとどーでもいい」

 

委員長「だったら……これを見てもそんなこと言っていられるかしら?」

 

男子「あ、女子の短パン? そういう布きれに興味はねーよ」

 

委員長「そう言っていられるのも今のうちよ。この『布きれ』はね、ついさっきまでマユコが穿いてたの。まだ温かいわ」

 

男子「な……何ぃっ!」

 

委員長「知ってるわよぉ? あんたマユコ好きなんでしょ」

 

SE:ゴムの伸縮するミョ~ンミョ~ンという音をランダムなテンポでしばらく続ける

 

委員長「……マユコ、さっき気分悪いって言って早退したけどさ……実はマユコって今日二日目なのよねー(ちょっと嗅いで見せて)すっごく芳醇なアロマ……マユコソムリエの私も興奮しちゃう」

 

男子「(徐々にはぁはぁする)」

 

委員長「まあ、せっかくのクラスマッチだし? あんたの出方によっては、この短パン貸してあげてもいいかなー」

 

男子「(なけなしの理性で)お、おまえ……マユコちゃんの親友だろ? 親友を売ろうってーのかよ!」

 

委員長「(ふざけた感じの棒読みで)そうだね、こういうのよくないよね。じゃあ売るのやめようかな」

 

男子「(即座に)いえ、売ってください、お願いします」

 

委員長「(柄悪く凄んで)だったら余計なこと言ってんじゃねーよ」

 

男子「はい……」

 

委員長「(冷たく)わかればいいのよ」

 

男子「(気弱そうに)あのー、委員長さん……貸してくださるっていうと、どのような使用目的をご想定でしょうか?」

 

委員長「被ったり嗅ぐくらいならアリかなって」

 

男子「……委員長さん……あの、舐めるっていうのは……ありでしょうか?」

 

委員長「ふん、とんだ変態ね。まあ、舐めようがちゅーちゅー吸おうが、あんたの思いのままよ。私が目をつぶってさえいればね」

 

男子「おお……」

 

委員長「さあどうするの?」

 

男子「……これから、3点入れます」

 

委員長「何ですって? もっと大きな声で!」

 

男子「3点、いえ、5点入れます! この俺が!」

 

委員長「(ぱん、と手を叩いて)はい、取引成立」

 

男子「(縋るように)5点入れたら、マユコちゃんの短パンは、ちゃんと貸してくださるんですよね? 約束してくださるんですよね?」

 

委員長「くどい! 委員長に二言はないわ。さあ、匂いの抜けきらないうちに、やることやってよね。早くしないと(ちょっとスーハ―してみせて)マユコの甘い蜜の香り、消えちゃうわよ」

 

男子「本気出します!! あんな幼稚園児のお遊戯みたいな試合、五分でカタをつけます!」

 

委員長「(戦闘ロボアニメの司令官風に)よしっ! 行けっ!!」

 

男子「はいっ!」

 

SE:バサッと上に羽織っていたジャージを脱ぎ捨てる音、勇士を迎える歓声

 

      ――終劇

​茗月

注意事項

 *指定したSE・BGMは変更・割愛可。その他のSE・BGMも演者さんの任意でどうぞ。

 *上記以外の一切の改変及びアニメ風ボイスでの演技不可

 *間を十分とって、ゆったり目に


 

登場人物

 圭けい・・・60代後半の男性? 茶房「茗月めいげつ」を営む。マニッシュボイスの女性キャスト希望。

 結ゆい・・・ごく普通の女子高校生。圭と魚名の孫。女性キャスト限定。

 魚名いおな・・・60代後半の女性? 圭の配偶者。きゃぴっとしている。フェミニンボイスの男性キャスト希望。

 

本文

 

〇夕暮れの茶房「茗月」の店内。静かに二胡の曲が流れているところへ、ドアベルの音

 

結「こんにちはー」

 

圭「こんにちは。いらっしゃい、結ちゃん」

 

結「あれ? 今日は圭さん一人? 魚名さんは?」

 

圭「ちょっと買い物に行ってるよ」

 

結「ふーん。(大きく伸びをして)あー小腹空いたわー……よいしょっと」

 

  SE:前後の茗の台詞に少し被せて、鞄を置く音、木の椅子を引いて座る音

 

結「金木犀、満開だね。お店の中までいい匂い!」

 

圭「窓を開けてるからね。この匂いが苦手で花酔いする常連さんも結構いてね、この

時期は来てくれないんだ」

 

結「私はこの匂い好きだけどなー」

 

圭「あの木はうちの店のシンボルツリーなんだ。金木犀であんなに大きいのは珍しいんだよ」

 

結「知らなかった。咲かないと金木犀だってわかんない」

 

圭「ははは……」

 

結「今日のおすすめは何? 金木犀のシーズンだし、桂花茶けいかちゃ?」

 

圭「お茶まで金木犀の選んじゃうと、生きてる花の香りに負けちゃうよ。今日の茗月リコメンドは月餅げっぺいと龍井茶ろんじんちゃ」

 

結「じゃあそれ!」

 

圭「はいはい」

 

  SE:お茶を淹れる音、食器を目の前に置く音

 

圭「どうぞ、お嬢さん」

 

結「いただきまーす!」

 

  SE:飲食中の茶器の触れ合う音

 

結「(食べながら)おいしーい! これ何でできてるの?」

 

圭「こっちは金時豆とくるみ、今食べてるのは無花果いちじくと松の実だって。栗のもあったんだけど、もう売切れちゃったよ」

 

結「そうなんだ……月餅って難しそう」

 

圭「(ぼやいて)私が手伝おうとすると、魚名が『触らないで』って怒ってた」

 

結「あはは、私、魚名さんにお菓子作り習っちゃおうかな」

 

  SE:飲食中の茶器の触れ合う音をしばらく適当に入れる

 

圭「(間をおいて)もう二か月になるね、結ちゃんがここに来るようになってから」

 

結「(食べながら)うん」

 

圭「『あなたたちの孫です』って結ちゃんが訪ねて来てくれたときはすごくうれしかったよ。孫がいることすら教えてもらえなかったしね」

 

結「私も正直びっくりしたよ。探し当てて会ってみたら、圭さん、背も高いし、背筋もピシッとしてるし、スーツ似合いすぎだし。魚名さんもふわふわっとして可愛くてさ」

 

圭「あはは……ありがとう。子育てが終わって、夫婦でSOGIソジに正直になったら、こうなっちゃって」

 

結「ソジってなに?」

 

圭「エス・オー・ジー・アイでソジって読むんだけど……まあ、自分をどの性別だと認識しているかとか、恋愛対象はどういう性別の人か、そもそも性別っていう境界線自体を持つのか持たないのかっていう、根本的な属性のことだよ」

 

結「SとかMとかもソジ?」

 

圭「それは……(ちょっと困ったように)違うと思う」

 

結「(笑って)冗談だよー、もー」

 

圭「(間をおいて)……ところで……孝明たかあきと祐子ゆうこさんに、結ちゃんがここに来てるってまだ言ってないんだよね?」

 

結「(食べながら)うん、言ってない……父さん、両親とは関わりたくないって言ってたから。頭固いよね」

 

圭「いやいや、母親が父親になって、父親が母親になるなんて、受け入れられなくても仕方ないよ。受け入れるべきと思う方が傲慢だ。孝明のことはこうやって遠くで見守るくらいにしとくよ」

 

  SE:ドアベルのなる音

 

魚名「(晴れやかに)ただいまー。あ、結ちゃん、いらっしゃい」

 

結「魚名さん、お帰りー! あ、そのワンピ可愛いね!」

 

魚名「あらぁ、可愛いのはワンピだけ」

 

結「魚名さんも可愛いよ!」

 

魚名「うふ」

 

結「お買い物だったの?」

 

魚名「うん、キビ砂糖。これと、金木犀の花でシロップを作るの。馬拉糕まーらーかおや豆花とうほぁに使うとおいしいわよぉ」

 

結「ねえ、そのシロップって今から作るの?」

 

魚名「今日は花摘みだけ。明日は雨らしいから、今のうちにね」

 

結「手伝う!」

 

魚名「うれしいわ、ありがと」

 

結「ねえ、ところで、あの金木犀ってこのお店のシンボルツリーなんだよね?」

 

魚名「ええ、そうよ」

 

結「なんで金木犀を選んだの?」

 

魚名「圭の名前が金木犀なの」

 

結「なんで? 圭さんは土二つの『圭』だし、金木犀と関係なくない?」

 

圭「中国の伝説でね、月には桂かつらの木が生えてるって言うんだよ。私は月のきれいな夜に生まれたらしくて、私の父は、私に桂かつらっていう漢字で『けい』と名付けようとしてたんだけど、子どもに植物の名前を付けると早死にするっていう迷信があってね、それで木偏きへんを取ったんだ」

 

結「それ、桂かつらの話でしょ? 全然違う木じゃない」

 

魚名「結ちゃん、金木犀の花のお茶、なんていうか知ってるわよね?」

 

結「桂花茶……あ、桂かつらの字」

 

圭「そうなんだよ。月に生えている桂というのは、本来は金木犀のことなんだ」

 

結「(納得して)ああ、それで!」

 

魚名「それにね、月には『かつらおとこ』っていうのが住んでいて、絶世の美男なんですって」

 

結「へえ」

 

魚名「うちの圭にぴったりでしょ」

 

圭「(小声で)そういうの、やめなさいって」

 

魚名「(ふざけて)もう、照れちゃって。ねえ結ちゃん、圭って可愛いでしょう?」

 

結「可愛いっていうか、……ツンデレイケ熟トランスジェンダー紳士って、属性てんこ盛りでどっかのアニメキャラみたいだよ」

 

魚名「じゃあ私はどう?」

 

結「きらりんキューティトラジェン美魔女?」

 

魚名「素敵! ハートのステッキ持って変身しそうだわ」

 

圭「(呆れて)もうほんとにこの人はいくつになっても……」

 

魚名「うふ」

 

結「……なんかいろいろ、ご馳走様」

 

魚名「さ、じゃあみんなで、花、摘みましょ?」

 

――終劇。

からころりん

*登場人物(二名とも性別不問、20歳過ぎたばかりの大学生)

  千早ちはや・神代かじろ

 

*注意事項

  BGMはご自由に。方言への変更は可。それ以外の改変禁止

 

*以下、本文

 

  場:千早の住んでいるアパート

  SE:アパートのドアベルの音、ドアを開ける音

 

千早「あ、神代? どしたの?」

 

神代「お見舞いに来たよ。足大丈夫?」

 

千早「……え? 順調に歩行困難だけど……今日みんなでキャンプ行くんじゃなかったっけ?」

 

神代「みんなは行ってる」

 

千早「神代も行くって言ってたじゃん」

 

神代「行かないことにした」

 

千早「なんで」

 

神代「あがって話していい?」

 

千早「あ、散らかってるけど」

 

神代「いつものことじゃん。おじゃましまーす」

 

  SE:室内を歩いてリビングへ行く音

 

千早「で、何でキャンプ行かなかったの」

 

神代「秋山と取り巻きが昨日参加するって言ってきたから、テキトーに理由つけて行くのやめた」

 

千早「秋山? ああ、神代あいつ嫌いだったよね」

 

神代「嫌いじゃない! 大っ嫌いなんだよ!」

 

千早「足骨折して引きこもってる間にそんなことがあったんだ」

 

神代「あーあ……楽しみにしてたのに」

 

千早「天気もいいし紅葉こうようきれいだろうなあ」

 

神代「温泉に入れるキャンプ場だったのに」

 

千早「あー、ギプス外して湯舟に浸かりたい」

 

神代「BBQもさ……栗田がA5和牛持ってくるって言ってたんだよ? 栗田の父ちゃんって、ウォルナットマートの社長だって。いい肉食べ放題だったかも」

 

千早「(ため息とともに)あーあ、肉食べたかったな」

 

神代「(ため息とともに)羨ましがってもしょうがないよ。そろそろお腹空かない?」

 

千早「空いた。ここんとこ、まともなもん食べてないんだよね」

 

神代「そうだろうと思った。ご飯作ってやろっか?」

 

千早「え……ありがとう。材料は」

 

神代「持ってきた。醤油やみそ、使っていい?」

 

千早「うん、自由に使って。何作るの?」

 

神代「ご飯とみそ汁とサラダ。それと、いつでもどこでも紅葉もみじ狩りができる料理」

 

千早「何それ」

 

神代「百人一首の『ちはやふる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは』って歌、知ってる?」

 

千早「それくらい知ってるよ」

 

神代「それがヒント。当ててみ?」

 

  SE:ここから次のSE指定まで、戸棚や冷蔵庫の開閉音、洗米、

     ガスの着火、野菜を切る音を台詞の裏で適当に流し続ける

 

千早「もっとヒントない?」

 

神代「水くくるって出てくるけど、水じゃなくて油」

 

千早「油?」

 

神代「本日は低カロリー高蛋白たんぱく、おまけに低価格の鶏胸肉と野菜で作ります」

 

千早「うーん」

 

神代「そろそろ揚げるよ」

 

千早「あ、わかった! えーと、もしかして……竜田揚げ?」

 

神代「あったりー」

 

     間

   SE:揚げる音

 

千早「おおー、おいしそう」

 

神代「こうやって野菜も竜田揚げにするとおいしいんだよ。根菜とかカボチャとか」

 

千早「(もぐもぐしながら)ほんとだ」

 

神代「つまみ食いすんな」

 

     間

   SE:食卓に料理を並べる音、座る音

 

千早「作ってくれてありがとう。いただきまーす」

 

神代「いただきまーす」

 

   SE:揚げ物のさくっとした音

 

千早「んー、さっくさく! そしてジューシィ!」

 

神代「胸肉でも十分おいしいよね」

 

千早「おいしくて安いなら最高じゃん」

 

神代「たしかに」

 

千早「(もぐもぐしながら)花より団子っていうか、紅葉もみじより竜田揚げだね」

 

神代「(笑って)大喜利おおぎり臭が凄い」

 

千早「(もぐもぐしながら)あ、ビール欲しいな。冷蔵庫からとって」

 

神代「アルコールはダメ。ギプスしてるくせにまた転んだら危ないって」

 

千早「えー?」

 

   SE:食事の音

 

神代「(長めの間の後、ため息)」

 

千早「どした?」

 

神代「……なんか後味悪くてさ」

 

千早「え? 悪くないよおいしいよ」

 

神代「そうじゃなくてさー、ドタキャンしてキャンプのメンバーに申し訳なかったなって……秋山は別だけど」

 

千早「(間をおいて)今度みんなでまた行こうよ、紅葉狩り。そこで埋め合わせしたらいいじゃん」

 

神代「足が治るの、一か月くらい先でしょ。紅葉こうよう終わって、もう寒いって」

 

千早「いつでもどこでも紅葉狩りできるって言ったの、神代だよ? (百人一首の読み上げ風に)『なんかよくわかんないけど竜田揚げからころりんイェーレッツパーリィ』」

 

神代「(笑って)在原業平ありわらのなりひらが泣くよ」

 

千早「(笑って)意外とノリノリでパリピっぽいやつだったんじゃないかって思うよ?」

 

   SE:食事の音フェイドアウト

 

                                     

           ――終劇。

​春の野を這う

*登場人物(どちらも名前は任意。年齢・言い回しは変更可)

 飼い主(◇)・・・男性。年齢任意。やさしい。

 犬(○)・・・人間でいえば小~中学生の女子。テンション高め。

 

*以下本文

 

犬「(何か咥えてハアハア走ってきて、口から出して逃げないように前肢で抑えながら、興奮している様子で)◇さま! これ、○が捕まえたのですよ! わん! わん!」

 

飼い主「何だこれ……これ……どこにいたんだ」

 

犬「道端の、ちっちゃいお花がいっぱいのところなのです。◇さまは、これが何だか知っていますか? ○はこれが何だか知っていませんが、かわいーいのですよ!」

 

飼い主「かわいい……かな」

 

犬「おうちに連れて行きましょう! ○はこれでたくさん遊ぶのです!」

 

飼い主「うーん……それはあまりよくないなあ」

 

犬「きゅうぅ」

 

飼い主「○、これはちゃんとおうちもあってお友達もいるから、放してあげなさい」

 

犬「えっ? でも◇さま、○がせっかく捕まえたのですよ」

 

飼い主「元いたところへ連れて行ってあげなさい」

 

犬「でも○が……」

 

飼い主「○も、誰かに捕まえられておうちに帰れなくなったらつらいだろう? こいつは帰してあげよう」

 

犬「……きゅうぅ」

 

飼い主「ちゃんと放してあげたかい?」

 

犬「(悲しそうに)はい……かわいーいのは、おうちに帰ってしまったのです」

 

主「えらいぞ。帰りにお寺に寄ろうな」

 

犬「わぁい! ○はお寺大好きなのです。おぼーさんがとっても優しいのです! わん! わん!」

 

飼い主「よし、行こう」

 

間。

 

飼い主「(呻くように)何だ……何なんだ、あれは……人間の手首……たしかに手首だった……でもめちゃくちゃに動いていた……何だったんだ……あんなものを見てしまった後、このまま家に帰るなんて、俺には無理だ……」

 

  ――終劇

 

 

 

寝てあげてもいいよ

*登場人物(方言など変更可)

♀・・・どことなく偉そうな小娘風に

♂・・・とにかく眠そうに

飼い主・・・性別変更可。性別により言い回しは変更して。


 

♀「ねえ」

 

♂「(眠そうに)なんだよ、寝てんのに」

 

♀「(ツンデレ風に)あたい、今夜、あんたと寝てあげてもいいよ」

 

♂「(眠そうに非難して)つまんねーことで起こすなよ」

 

♀「つまんなくない! あんただっていい思いできるじゃん。あたいいい体してるし、あったかいし」

 

♂「どーでもいい。おれは十分あったけーし」

 

♀「あんたはあったかくてもあたいが寒いの!」

 

♂「知るかよ」

 

♀「繊細なあたいとがさつなあんたは違うの!」

 

♂「(うるさそうにあくびしつつ)はいはい、みんな違ってみんないい」

 

♀「(ふてくされつつ宣言するように)あたい、勝手にあんたのベッドに入っちゃうからね」

 

♂「(眠りかけでむにゃむにゃした感じで)勝手にしろ」

 

♀「のっかっちゃうもんね! ぐりぐりもみもみしちゃうもんね! ほら!」

 

♂「(むにゃむにゃと)はいよ」

 

間。

SE:スマホカメラのシャッター音

 

飼い主「(メロメロな口調で)あーん、もう、カーワーイーイー! 今日も一緒に寝てるぅ!」

 

SE:スマホカメラのシャッター音

 

飼い主「うちのにゃんことわんこ、本当に仲がいいのよねー。今日もSNSにあげちゃおっと」

 

SE:スマホカメラシャッター音

 

   ――終劇。

窓の外の鳥

*登場人物(名前は任意で入れること)

 飼い主(◇)・・・男性。年齢任意。病床にいる。やさしい。

 犬(○)・・・人間でいえば高校生~二十歳くらいの女子。大型犬。テンション高め。

 

*本文


 

◇「カーテンを開けてくれ」

 

○「はい」

 

  SE:カーテンを開ける音

 

◇「窓を開けるのは……君には無理かな」

 

  SE:窓を開ける音

 

○「できるのです! ◇様が病院に行って帰ってこない間にいっぱい練習して、できるようになったのです」

 

◇「そうか、お利口だな」

 

○「お利口なので撫でて欲しいのです」

 

  SE:ベッドのきしむ音

 

◇「よしよし」

 

○「ずっとこうして撫でていて欲しいのです」

 

◇「私も、ずっと撫でていたかったよ」

 

○「きゅううう」

 

◇「ああ、いい風が吹いている」

 

○「今日は風が冷たいのですよ」

 

◇「大丈夫だよ。ああ、水仙が咲いているんだな」

 

○「お外は今くさいのです。変なド腐れ花が咲いて毒の臭いなのです」

 

◇「人間には、季節を知らせるとてもいい匂いなんだ」

 

○「そうなのですか」

 

◇「そうなんだよ」

 

  SE:鳥の声

 

○「◇様は元気にならないといけないので、ゆっくり休まないとだめなのです。クソバカ鳥がうるさいので、窓を閉めようと思うのです」

 

◇「いい声じゃないか。このまま開けておいてくれ」

 

  SE:鳥の声

 

○「(窓の外に向かって)うるせえ死ね噛み殺すぞ、わんわん!」

 

◇「君の風物に対する口の悪さは私の躾が至らなかったからなんだろうなあ」

 

◇「至らなくないのです! ○はとてもまっとうなのです」

 

  SE:鳥の声

 

◇「ちょっと前まで庭に来ていた片足のキジバトを見なくなった。……食われたのかもしれないな」

 

○「誰が食ったのですか?」

 

◇「ああ、多分猫やカラスが美味しくいただいたんだろう」

 

○「美味しいなら、よいではありませんか」

 

◇「たしかに。……ああ、死ぬなら私も意味のある死にかたがよかった」

 

○「意味のある、とはなんなのですか」

 

◇「例えば、お腹の空いた誰かに食べてもらうとか」

 

○「なぜ食べてもらいたいのですか」

 

◇「誰かが食べてくれたら、その体の一部になって、私がまだ知らなかった世界を見たり聞いたりできるかもしれない。もしそうなるなら、君に食べてもらうのが一番幸せだ」

 

○「なぜ○なのですか」

 

◇「君が大好きだから」

 

○「◇さまを食べるのは嫌なのです」

 

◇「はは……私は不味そうだからな」

 

○「美味しそうでも食べないのです。○はお利口なので知っているので教えてあげるのです、食べたものはうんこになるのですよ! だめです! ◇様が○のうんこになるなんてとてもだめなのです!」

 

◇「……あのね、一応情緒ってものがあるから、うんこうんこ言うのはちょっと……」

 

○「○は食べません! 食べません! 絶対に食べませんのです! 」

 

◇「わかったわかった。わかったから静かにしなさい」

 

○「こんな話はだめなのです! ○はこうして毎日◇様とお話しして撫でてもらうのです。そうしたら、ふたりともうれしくて、ずっとずっと幸せなのです!」

 

◇「……そうか」

 

○「○は◇様が思っているよりもっとたくさんわかっているのです。もっと! もっとたくさん!! だからこういう話はだめなのです! わん! わん!」

 

◇「声が大きい」

 

○「だいじなことを教えるときは大きな声でと習ったのです、わん! わん!」

 

◇「……やれやれ……君はつくづくお利口だね」

 

○「だから撫でて欲しいのです」

 

◇「はいはい」

 

○「気持ちよいのです。幸せなのです」

 

◇「……今日は君にご馳走を用意させよう。私を食べるよりもずっと美味しいのを」

 

○「やったあ、なのです!」

 

◇「私も少しは食べて、元気になるように頑張るよ……うん、頑張らなければ」

 

○「はい!」

   ――終劇。

 

たぬきとの遭遇【実録】

○登場人物(いずれも年齢、性別不問、言い回し変更可)

 

  たぬき・・・とにかくぽやーんとしている

  私・・・自動車運転中

 

 

〇本文

 

たぬき「車が来た」

 

私「あっ、たぬき! 頭悪そう!」

 

たぬき「道路を渡りたい」

 

私「車停めてやるから早よ渡れ」

 

たぬき「車が停まった」

 

私「早よ渡れって」

 

たぬき「わなかもしれない」

 

私「(呆れて)わーたーれー!」

 

たぬき「こわいから座ってやり過ごす」

 

私「なぜ座る! 早よ行け!」

 

たぬき「(しばらくして)たぶんこの車はどんくさい」

 

私「いつまで待たすつもり?!」

 

たぬき「じゃあ渡ってもいいかもしれない(道を渡って)」

 

私「やっと行ってくれた、よかった」

 

たぬき「クールなおれは振り向かない」

 

私「可愛いやつ! 人に見つからないで幸せに暮らすんだよ!」

 

――終劇。

 

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