top of page

何だか変な童話集

 

 

 赤ずきんちゃんと狼氏 

赤ずきん「どうして狼さんの目は大きいの」

狼「それはね、君の身体を余すところなく視姦するためだよ」

赤ずきん「えっと……お耳が大きいのは」

狼「君の喘ぎ声とかおねだりとかをしっかり記憶するためだよ」

赤ずきん「お口もどうして……つか、もうどうでもいい」

狼「君の身体を舐め回したり甘噛みしたり舌先でいろいろと……百聞は一見に如かずだよ、ほらおいで僕の毛皮をモフモフしよ? 気持ちいいよ?」

赤ずきん「もうやだこいつ」

狼「他に聞きたいことあるんじゃない?」

赤ずきん「いや別に」

狼「ほら……どうして大きいのか聞きたい体の部位があるだろ? ほら聞いて?」

赤ずきん「興味ねえしきもいし」

狼「さっさと聞けよ犯すぞ」

赤ずきん「じゃあ……狼さんの髪の毛はどうしてそんなに少な……」

狼「いや聞くべきはそこじゃない」

赤ずきん「何なのよもう」

狼「ああそうだ! 乙女の恥じらいとやらで聞けないんだね? こりゃ無神経だったよごめんね」

赤ずきん「なんか一人合点しやがったわこいつ……」

狼「聞けないんなら先に答えだけ教えてあげよう。君をぶち犯してひいひい言わすためだよ」

赤ずきん「それ、別にそこまで大きくないんじゃね?」

狼「え?……なんか今すごく君らしくない言葉が」

赤ずきん「だって見たもん、エックスビデ……」

狼「それを言ってはならあああああん!! あとでゆっくり説教するよ! まったくもう……」

赤ずきん「この危機をコンプライアンスで乗り切ろうとしたのに」

狼「そんなのはどうでもいいから! 愛があれば万事OKなんだよ!」

赤ずきん「愛もくそもあったもんじゃないって」

狼「愛なんか後付けでいくらでも育めるからとりあえず、やろう」

赤ずきん「うっわ信じられない……」
 

血染め頭巾氏と狼ちゃん

血染め頭巾「君の目はどうしてそんなに澄んで美しいの」

狼「えっと……わかんないわよ」

血染め頭巾「どうしてそんなに唇つやっつやなの」

狼「よだれ……かな」

血染め頭巾「どうしてそんなにモフモフで触り心地好さそうなの」

狼「答える必要あんの?」

血染め頭巾「何でそんなにスタイルグンバツなの?」

狼「……知らないよ」

血染め頭巾「何で僕の留守中に僕の家にいたの?」

狼「そりゃあ……その……お腹空いたし」

血染め頭巾「何でベッドの中で僕を待ってたの? これが一番聞きたい」

狼「え? いや、ほら……私、狼だし……あんたを襲って食うため?」

血染め頭巾「ほう…僕をねぇ……ふふっ」

狼「ごめん、ほんとごめん……帰るわ」

血染め頭巾「待てええぇぇぇぃ!」

狼「尻尾掴むのやめてよ! 痛いっ!」

狼「(ママの言ったことほんとだった! 森のこっち側には怖い変態がいるってほんとだった!!)」

狼「ごめんなさいいいいい! もう来ません! 二度と来ませんから!」

血染め頭巾「食えよ!!! 思いっきり! 淫蕩に! 猥褻に! よだれ垂らしてダブルピースで! 僕を食っていけええええ!!!」

狼「いやああああああああ」

血染め頭巾「この僕をしゃぶりつくせえええええ!!! 逃げるな!! 何年肉食やってんだこのメス狼が!!!!!!!」

狼「誰か! 誰か来て!! 助けてええええええええ!!! ママぁぁぁぁ!!!!」

3Dプリンターと泉の精

娘「どうしよう!! 私の小間使いが泉に! 誰か! 誰か来て!」

泉の精「こんにちは。僕は泉の精です」

娘「助けに来てくれたのね!」

泉の精「うーんちょっと違うかな」

娘「だったら何の用? 今忙しいのよ」

泉の精「君が落としたのはこの金のお嬢さんですか」

娘「え、何それ」

泉の精「一応、僕らの仕事上の決まり文句だから……よいしょ……ではこの銀のお嬢さんですか」

娘「違うわよ」

泉の精「ではこの生身のお嬢さん?」

娘「そうよ! そいつよ! さっさと返して」

泉の精「君は正直者なので、金と銀のお嬢さんはあげるよ」

娘「え? あ、ありがとう」

泉の精「だけどこの生身のお嬢さんは僕が貰っとく」

娘「は? 何言ってるの?」

泉の精「前から思ってたんだよ。生身の女の子落ちてこないかな~って。しかも落ちてきたのが前から目を付けてた子。返すわけないだろ」

娘「何ですって?!」

泉の精「君たちがここを通るたび見てたんだ。彼女、優しいいい子だよね」

娘「そうよ! 自慢の小間使いだわ」

泉の精「君がGL展開狙ってたのも知ってたよ。絶対阻止してやろうと思ってた。キモいよねGLって」

娘「うるせーよ! だいたいお前、泉の精じゃなくて人をおぼらかして尻子玉を抜くっていう河童なんじゃねーの?!」

泉の精「僕が河童だったら、君たちが水遊びしてた時点で引きずり込んでたよ! でも僕らは泉の精だから誰かが落としたものしか拾得できないきまりなんだ。君が彼女をふざけて突き飛ばしてくれて本当に良かった」

娘「だったら、職業倫理に則んなさいよ! 正直に答えたんだからそいつ返して!」

泉の精「嫌だ。僕が冷たい水の底で、3Dプリンターで金属レプリカ作って落とし主に見せるっていう馬鹿馬鹿しい仕事をやりながら、何百年独りでがんばってたと思ってるんだ。たまにはご褒美も欲しいよ」

娘「だめよ! 返してよ! 返さないとパパに言いつけて埋め立てしちゃうからね、このきったねえ水たまりを!」

泉の精「埋め立てられたら僕は彼女と運命を共にするよ。じゃあね」

Ⅳ. ケモナー美女と元野獣

 

美女「なにこれ……あたしのケモタンはどこ?」

元野獣「なにこれ、て……僕の本当の姿だけど……驚かせてごめん」

美女「はあ? あんた、あたしのこと騙してたの?」

元野獣「実は僕、呪われてあんな野獣の姿に変えられててさ。どうだいこの輝かしい美貌! 一応王子なんだよ? びっくりした?」

美女「どちゃくそがっかりした。つかスンゲー幻滅してるんですけど!」

元野獣「……え?」

美女「あんたみたいなタイプ、はっきり言って苦手なんですけどぉ!」

元野獣「え? だって愛してる、結婚してくれるっていうから呪いが解けたんじゃん」

美女「私が愛してるっつったのはケモタンだよ!」

元野獣「いやいや、ケモタンは僕なの! これがホントの姿なの! やっとこさ戻れたとこなの!」

美女「あーたーしーは! ミーミー鳴いてしょぼくれた顔したケモタンが好きだったの! 返してよあたしのケモタンを!」

元野獣「はい?」

美女「モフモフに戻れっつってんの!」

元野獣「なに言ってんの?! 僕王子だよ? 女子の憧れの的だよ? 金も名誉も美貌も持ってるんだよ?」

美女「うわ最低」

元野獣「どこが!」

美女「あたしのケモタンは金や名誉や見てくれを自慢したりしなかった。動物にも劣るよあんたは」

元野獣「あんなケダモノのどこがいいんだよ!」

美女「ケダモノだからいいんじゃん! 素朴で、まっすぐで、嘘偽りがなくてさ! モフモフで余計なこと喋んなくて、洗ってない犬みたいな匂いがしてさ! そんなこともわかんないの? あんた見かけがキモいだけじゃなくてバカなの?」

元野獣「いや君のほうがバカなんじゃないかな」

美女「うるせーバカ! あんた、え~と、王子だっけ、とにかくケモタンに戻ってよ」

元野獣「無理だよ! 無理じゃなかったとしてもいやだよ!」

美女「じゃああんたと結婚なんかしない! 汚らわしい! あんたのせいで、もうあたしは……愛するケモタンに会えなくなって……あんたに引き裂かれちゃったんだから……」

元野獣「いや僕がケモタン本人だからね」

美女「認めない! 断じて認めない!」

元野獣「なに泣いてんの、泣きたいのはこっちだよ」

美女「あんたケモナーなめてない?」

Ⅴ.サニレタはちしゃ、ラプンツェルは野ちしゃ

店長「あんたさあ、こんな128円のサニーレタスなんか万引きして、それで社会的に終わりっていうの情けなくないの?」

万引き犯「いいえ? こういうの値段じゃないっしょ?」

店長「それ、盗ったもんの安さに開き直った相手を盗られた側が責めるときの台詞だからね?」

万引き犯「はあ」

店長「まったくもう……あれ? あんたの顔どっかで見たことあるな」

万引き犯「会ったことあるっすよ」

店長「うーん、思い出せない」

万引き犯「うち、このスーパーのとなりっすから。何度も挨拶したことあるっすよ」

店長「あ」

万引き犯「店長さん、客商売失格っすね」

店長「うるさいよ! だいたい、あんた何でそんな面の割れた店で万引きなんかするんだよ! この界隈で肩身が狭くなるとか考えないの?」

万引き犯「急ぎだったんで」

店長「急ぎでサニレタが必要になる用事ってなによ?」

万引き犯「サラダ作りたくて」

店長「盗んでまでサラダ食いたいの?」

万引き犯「もうすぐうち、子どもがうまれるんすよ」

店長「はぁ」

万引き犯「で、かみさんがサニーレタスが食べたい気分って言ってるんすよ」

店長「だったら買えよ」

万引き犯「いやサイフうちに置いてきちまって」

店長「隣なんだから取りに帰れよ!」

万引き犯「いや急ぎだったんで」

店長「あんたとは話にならん! ちょっと奥さん呼んでよ。ほら、そのスマホで」

万引き犯「あ、無理っす」

店長「なんで?」

万引き犯「かみさん病院にいるっす。生まれちまってるっす」

店長「え?」

万引き犯「俺達の子っす。ほら、LINEで子どもの写真も送ってきてるし」

店長「おめでとう」

万引き犯「女の子っすよ」

店長「へえ、可愛いね」

万引き犯「あんたがサニレタごときでごちゃごちゃ言わなかったら、俺出産に立ち会えてたはずなんすけどね」

店長「自業自得だろうが」

万引き犯「あんた、人一人生まれたんすよ? 一世一代の素晴らしい瞬間に、父親が立ち会う権利を侵害しておいて、あんた人間の心もってるんすか?」

店長「それはそれ、これはこれ、でしょうが!」

万引き犯「いーや、それはこれっすよ。お祝いはそのサニレタでいいっす。ほらもう店頭に出せないっしょ、それ」

店長「何言ってんのあんた」

万引き犯「それこっちの台詞っす。あんた祝う気あるんすか? あんたの出方によっちゃあ、うちの子の育児手伝わせてやってもいいんすけど?」

店長「なんで?!俺は忙しいんだよ!」

万引き犯「さっきうちの娘、可愛いって言ったっすよね? 育児参加嬉しくないっすか?」

店長「あんた正気か」

万引き犯「娘の命名権もあげるっすよ」

店長「いらないよ! あんた自分の子をなんだと思ってんだ! 俺がもし、サニレタって名前にしようって言ったらどうすんだよ」

万引き犯「はい、サニレタね」 

店長「えっ?! 待ってちょっと待って奥さんにLINE送るのやめて」

ピロリン

万引き犯「かみさんもいい名前だって喜んでるっす!」

店長「あんたら本当にそれでいいのか?!」

万引き犯「いいっすよ? じゃあ俺はこれで。サニレタありがとうっす」

店長「いや待って! 待ってって!」

 

 Ⅵ.亀いじめキッズと浦島さん

/*登場人物:浦島太郎 こども♂ 亀/
/*可能ならSE:海の音を好きなところに適当に小さく流す/

 


こども「えい! 亀め! これでも食らえ!」
/*可能ならSE:打撃音/

亀「ひいぃぃぃ、どなたかお助けをぉぉ!」(哀れっぽく)

浦島さん「こら! ナニしてるんだ!」

こども「ナニって、亀で遊んでるんだよ。見りゃわかるだろ」

浦島さん「なんと嘆かわしい! こんな道端の、公衆の面前で亀をいじって遊ぶな!」

こども「だって亀をいじめるの、楽しくない?」

浦島さん「そう言うのは、家でこっそり、母ちゃんに隠れてやるもんだ! それにその歳で亀をいじめるような性癖だなんて、世も末だな! おじさんは、いじめるところまで行き着いてないぞ! せいぜいいじるとこまでだ」

こども「じゃあ、おじさんはどうやって亀いじってんだよ」

浦島さん「まず、ティッシュが近くにあるのを確認してから、首のあたりをそっと握って、きゅっと締めて、それから上下に」
/*可能ならSE:この台詞をフェイドアウトし、情事がテーマのフランス映画や昼メロ風音楽を流し、適当なところでプチ切る/
/*SEがない場合、「以下略」とセクシーに囁く/


浦島さん「というわけだよ。おじさんはノーマルだから、亀をいじめて楽しんだりしないし、人前でなんて無理だし、人のを見るのも無理」

こども「よくわかんないけど、亀は人前でないところで、優しく扱えってこと?」

浦島さん「That's right! 人前だと御用になるし、それよりも怖いのは、なんて小さい亀なのって失笑されることだ。それに、亀に優しくするのは当然だ。傷つけたりするとバイ菌が入って腫れたりするからな?」

こども「よくわかんないけど、腫れたら怖いね」

浦島さん「自己のリビドーヘ向かうタナトスに気持ちが昂るのもわからなくはないが、そういうのはノーマルな段階を経て、酸いも甘いも噛み分けてから発現させた方がいい性癖だとおじさんは思う」

こども「全然わからないや」

浦島さん「とにかくこのことは親御さんには黙っててあげるから、二度と人前でこんなことをするんじゃない」

こども「うん、わかった。わかんないけど」

浦島さん「よし、いいこだ。亀を触ったあとは、ちゃんと手を洗うんだぞ」

こども「わかった!」

/*可能ならSE:朗らかに笑いあう浦島さんとこどもの声が遠ざかっていく。そこへかぶさる海の音。/
/*SEがない場合、少し間を置く/

亀「なんか……なんか、尊厳をすんげー踏みにじられた気がするんですけど!」

​ 

 

 

マッチ売り女と紳士

 

/*登場人物:マッチ売りの若い女(以下、女) 紳士/
/*女はあくまでも幸薄い感じで健気に、途中からちょっと頭がおかしな感じ。紳士は品よく善良そうに/

女「マッチ……マッチはいりませんか?」
女「マッチがご入用《いりよう》ではありませんか?」
女「どうか、マッチを買ってくださいませんか?」

女「ああ……誰も買ってくれないわ……どうしよう」

紳士「どうしたんだね、お嬢ちゃん」

女「マッチを売ってるんです」

紳士「マッチねえ……売れるかい?」

女「いいえ、ちっとも……あの、おじさん、マッチ買ってくださいませんか?」

紳士「ごめんね、おじさんチャッカマン持ってるから」

女「そうなんですよね……皆さんチャッカマン持ってるっておっしゃるんです」

紳士「……売れなかったら、親御さんに叱られるのかい?」

女「いいえ、うちの親は私の好きなことをやらせてくれます」

紳士「病気のご家族のためにお金がいるとか?」

女「いえ、みんな健康で、年に二回海外旅行とかに行ったりしてます」

紳士「それなのになぜ、あえてマッチを売り続けるのかね」

女「私、マッチが好きなんです」

紳士「へえ? 珍しいね、マッチが好きだなんて」

女「あのフォルムが好きなんです。素晴らしいでしょう?」

紳士「そうかなあ」

女「先が赤くて、太くなってて」(うっとりした調子で)

紳士「そのどこがいいのかよくわからないなあ」

女「こう……擦ると、熱くなって……火を噴くんです。すてき」(うっとりした調子で)

紳士「……??」(困った感じでちょっと唸る)

女「チャッカマンにはロマンがないわ! 先っちょが全然ダメ! みんな、マッチのよさをわかってないのよ!」(いきなり喚く)
女「だから、こうやってマッチのよさを布教してるんです」(いきなり健気な調子に戻る)

紳士「なるほどね」(少々逃げ腰で)

女「おじさん、おじさんだってマッチのよさをわかってるはずよ……だってそこに一本、野太いマッチ持ってるでしょう?」(うっとりした調子で)

紳士「指差さないで! マッチとか持ってないから!」

女「じゃあ、チャッカマンタイプなのね……まあそれも一つの個性だわ。個性ってホント便利な言葉よね」(いきなり見下した態度)

紳士「やめて! そういうの、ほんとやめて」

女「悩んでるなら手術でなんとかなるわよ。男性美容整形外科のパンフ持ってるけど、いる?」
/*もし可能ならSE: パンフの紙の音と革靴で走り去る音/

女「あ、逃げた」
 

  

 

鏡とお妃

お妃「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?」

鏡「王妃様、お答えいたしましょう。昨日までは白雪姫でございましたが、2ランクダウン、現在のトップは城下町の西門近くにある魚屋のマリア嬢でございます」 

お妃「では私は?」

鏡「昨日の5位から後退して6位という結果に終わっていらっしゃいます」

お妃「前から思ってたけど、なんか、株価やオリコンみたいな風に言うのね」

鏡「競馬実況風にもできます」

お妃「結構よ」

鏡「アレクサ風にもできます」

お妃「(うんざりして)いいったら」

鏡「……もしかして、美人ランキングの順位が下がったことが原因でご機嫌が斜めでいらっしゃるのですか?」

お妃「そうね、自分の唯一の美点が若い子たちに追い越されていくのは確かにつらいもの」

鏡「(吹き出す)ぷ」

お妃「何よ」

鏡「何度聞いても、自分を美しいと心底思い込んでおられる方の台詞は面白いなと」

お妃「うるさいわね」

鏡「ところでわたくし、本日のアップデートにてサジェスト機能が付きましたので、今までご提供を控えておりました情報をお勧め申し上げたいのですがよろしいでしょうか?」

お妃「え、あなたアプデとかできたの」

鏡「ええ、これまで手動選択となっておりましたが自動で行えるようになりました」

お妃「便利ねえ」

鏡「曲がりなりにも魔法の鏡ですので。ではサジェストいたします。これまでご質問いただいておりました美人ランキングにつきましては、女性のみを対象にしておりましたが、昨日リリースされました美人ランキング|Ver.《バージョン》11.0では、性的指向又は性自認に関する差別とその解消への弊社の取組結果といたしまして、全性別を対象としたランキングとなっております」

王妃「今、弊社って言ったわね。あなた会社法人のプロダクツなの?」

鏡「細かいことはいいのです。いかがですか、|Ver.《バージョン》11.0をインストールなさいませんか」

王妃「体験版はないの?」

鏡「三日間の無料体験版がございます」

王妃「三日? ケチねえ!」

鏡「呪具の世界も生き馬の目を抜く状況になっておりまして」

王妃「まあいいわ。体験版インストールしてちょうだい」

鏡「(間をおいて)インストールが終了いたしました。早速起動いたします」

王妃「ではもう一回聞くわよ? 鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?」

鏡「(派手なSEと共に)それは、城の真北きっかり10マイルの小麦農家の長男、15歳のピーターくんです」

王妃「へ? 男の子? ちょっと見せて」

鏡「紹介動画はこちらです」

王妃「あら……すごくきれいねこの子」

鏡「そうでございましょう?」

王妃「ところで、全性別入れたところだと私は何位なの?」

鏡「17位と大きく後退なさっておられます」

王妃「ちょっと待って、さっきの旧Ver.だと私は6位だったわよね?」

鏡「はい」

王妃「全性別入れると17位ってことは、私の前に11人も女じゃないやつが入り込んだってことよね?」

鏡「(しれっと)いけませんか?」

王妃「……いけなくはないけどショックだわ」

鏡「その11人を分割画面で動画表示しましょうか」

王妃「余計なことしないで」

鏡「いかがです、こちらの男性など、ミケランジェロのダビデと見まごう美しさでございますよ」

王妃「ま、まあ、悪くはないわね。じゃあこっちのワイルドマッチョは?」

鏡「これは森で白雪姫を養育している7人の鉱山労働者の一人でございますね。他の6名も20位以内に全員ランクインしております」

王妃「(舌打ちして)チッ、あの子ったら家出したと思ってたら、結構楽しくやってんじゃないの」

鏡「七人のマッチョに妹扱いされてラブコメのごときお暮らしぶりですね」

王妃「ああ、超ムカつくわー!」

鏡「まあまあ、お怒りはごもっともでございますがこちらの美形男子をご覧になってお心をお静めくださいませ」

王妃「あら……好みのタイプね……、これは誰なの」

鏡「この男性は現在、この城内におられますね。王様のお抱え道化でございます」

王妃「え? あの、赤っ鼻でバカなことばっか言ってるあの男が?」

鏡「アルルカンの化粧を落とすとこのような苦み走ったクールな美貌が現れるのでございますよ」

王妃「ふ、ふーん、そうなの」

鏡「笑った画像もございますので表示いたしますね」

王妃「すてき……もっと、もっと見せてちょうだい」

鏡「セクシーな着替えやしどけない寝起き姿などのコンテンツがございますが、ここから先は体験版では表示できません」

王妃「じゃあ買うわよ」

鏡「ご購入ありがとうございます」

王妃「(少し間をおいて)ねえ、鏡」

鏡「何でございましょう」

王妃「……なんか、女のランキングなんかどうでもよくなってきちゃったわ」

鏡「はい?」

王妃「イケメン眺めてるほうが何十倍も、いえ、何百倍も楽しいわ! なんでそんなことに気づかなかったのかしら。なんか無駄に時間使った気がするわ」

鏡「さようでございますか」

王妃「(しみじみと)私ね、恋とかしたことなかったのよ。親の言いつけどおり王様に嫁いで、生さぬ仲の|継娘《ままむすめ》のいい母親になろうって一応努力もして、全部空回りしちゃった。私にあるのは美しさだけだったのに、それも年を取って消えていって、このまま人生が終わるのかなって思っていたのよ……こうやって、きらきらした素敵な殿方を見ていると、なんだか少女時代に戻れたみたいにドキドキして幸せだわ」

鏡「王妃様……」

王妃「こんなしょうもない人生を一人で歩く痛みも、耐えられそうな気がしてくるわ」

鏡「お一人ではございません。わたくしもご一緒いたしますよ、王妃様」 

 


                ――終劇。

   

 

 

赤い痴女と狼さん(童貞)

 

赤ずきん「(ベッドにいる狼に馬乗り。サイコっぽいアニボで)狼さんのお手手はどうしてそんなに大きいのですか……いいえ答えなくてもよいのです。赤ずきんを力強く抱き締めるためなのですね」

 

狼「(馬乗りにされて苦しそうに)ちがっ……違うよっ!!!」

 

赤ずきん「狼さんのお目目はどうしてそんなにキラキラしているのですか? まるで赤ずきんを迎えに来た王子様みたいなのですよ」

 

狼「違うって! 涙目だからだよ!」

 

赤ずきん「お口も大きいのですねえ……舌遣いがよさそうなのですよ。赤ずきんのここやあそこをぺろりんこしたいのでしょう?」

 

狼「勝手に決めないで!!」

 

赤ずきん「狼さんの身体は大きいのできっといろんなところが大きいのですねえ。(舌なめずりをして)赤ずきんにはわかります」

 

狼「やめてそんな目で見ないで!! あっ、いやっ触らないでっ」

 

赤ずきん「うふふ、赤ずきんが欲しくてベッドで待っていたのでしょう?(頬にキスする)」

 

狼「ぎゃああっ!! ち……違うもん!! おばあさんが病気だから、お花届けに来ただけだもん!!」

 

赤ずきん「じゃあなぜおばあちゃんの寝間着を着て、おばあちゃんのベッドに入っているのですか?」

 

狼「そ、それは……」

 

赤ずきん「それは?」

 

狼「おばあさんが好きだから……(泣きそうに)好きな人のパジャマが脱ぎ立てで置いてあったら、嗅いだり……着ちゃったりするじゃん? あったかみが残ってるベッドとか、くんくんしちゃうじゃん?」

 

赤ずきん「(呆れたように大きくため息をついて)あ~あ、狼さんは多分、変態さんなのですね?」

 

狼「変態でもなんでもいいよ、もう……仕方ないじゃん、好きになっちゃったんだもん」

 

赤ずきん「老け専キモいのです。赤ずきんはピッチピチでジューシーなのですよ?」

 

狼「俺はおばあさん一筋なの! ……あっどさくさに紛れて触んないでっ! いやらしいっ! 不潔っ!」

 

赤ずきん「うふふふふ、赤ずきん、おばあちゃんに言いつけちゃおうかなあ……と思うのですよ」

 

狼「あっ?! 待って?! (弱々しく)おばあさんには言わないで……頼むから」

 

赤ずきん「うふふふふ、言わないであげてもよいのですよ、でも狼さんには、赤ずきんの言うことを聞いてもらうのですよ」

 

狼「えっ」

 

赤ずきん「赤ずきんとメイクラブしてメイクベイビーしたら、黙っていてあげてもよいのですよ」

 

狼「えっ……やだ! やだったら! 俺、初めてなんだから! 初めては好きな人とって決めてたんだから!」

 

赤ずきん「カマトトぶんじゃねえよくそ変態。ババアにチクられたくなかったら、さっさと脱ぎな」

 

狼「誰か助けて!! 誰かあああああ!! (泣いて)やだああああこんなとこで俺の清らかな蕾が散らされちゃうなんてえええ!」

 

赤ずきん「うるさいのですねえ(服を破く音)」

 

狼「ぎゃあああああああっ! やだっ! やだああああっ! お、おばあさーん! おばあさーーーーん!」

 

 ――終劇。

七夕の織姫夫人

織姫「新婚当初、あたくしたちはいつでもどこでも身も心も結ばれていましたの。
 本当にTPOなんてオールスルーでお盛んでしたわ。もう乾く暇もないくらい。

 

 とうとうあたくしたちに嫉妬した連中から言いがかりをつけられて天の川のこちらとあちらに引き裂かれてしまったのですけど、あんなに性欲の塊だった夫が一年間もあたくしがいないところで耐えられるとは思えませんわ。

 

 絶対に夫は浮気しているはず……間違いありませんことよ。

 

 でも一年に一度、目を血走らせて会いに来て腰を振りまくっている夫にそのことを糺しても
『浮気なんかしていない。第一、天の川の向こうに女なんかいない』
の一点張りですの。

 

 そして、やっとあたくし、真相に思い至ってしまいましたのよ。

 

 そうなんですの、夫は牛飼い……あたくしピンときましてよ!

 夫の服にはいつも牛の毛がついていて……おお、なんて汚らわしい……きっとあのケダモノと、ケダモノのような行為をしているに決まっていますわ!

 

 だって夫は穴なしでは生きていけないどスケベですもの!

 

 だけど、このあたくしは……そんな夫を拒めない……そんな|性《さが》の女。
 ああ、我が身が呪わしい……。

 こんなあたくしを、夫は今夜めちゃくちゃにするのですわ……考えただけでもう、あたくし……あたくしは…… 」


牽牛「性欲強いのは認めるけどさ、なんかひどくないかいマイハニー?」

    ――終劇。

 

黒幕はおばあちゃん

 

 

赤ずきん♂「(素で)……オオカミさんそこおばあちゃんのベッドなんですけど」

 

狼♀「おばあさまが赤ずきんさまとのランデブーに使っていいって言ったのですよ」

 

赤ずきん「ランデブーって何?!  なんで裸なの?!」

 

狼「赤ずきんさまのPCの中の動画の真似なのです」

 

赤ずきん「待って!  ちょっと待って!!  何それ?!  何の権利があって勝手に人のPC見てんの?!」

 

狼「オオカミちゃんは赤ずきんさまのベターハーフなので見てもよいのです」

 

赤ずきん「よくない!!  やめてほんとやめて!! パスワどうやって突破したんだよ!」

 

狼「キーボードの匂いを嗅いで使用英数記号を特定して、ドスケベそうな単語をアナグラムで組んだらぴしゃりなのですよ」

 

赤ずきん「君、変な方向に有能だね?!」

 

狼「はい、オオカミちゃんは有能なのです。裸の女の人が好きならオオカミちゃんにそう言えばよかったのですよ。いつでも見せてあげるのに。有能なので」

 

赤ずきん「違う!!!  あれは……そう、おばあちゃんが僕のPCに勝手にDLしたやつで……おばあちゃんがスケベで困ってたんだよ、あはははは……」

 

狼「裸の女の人の動画がいーっぱい入った赤ずきんさまのフォルダーをおばあさまに見せたら、『こんなので発散するからひ孫の顔が見られない』って言ってこわーいのでいっぱいいっぱい上書きしていたのです」

 

赤ずきん「はぁ?!」

 

狼「赤ずきんさまはこわーいお写真見たことがありますか? ホームビデオに映りこんだマジもんの怨霊とか、シリアルキラーが撮っていた犯罪記録とか、人間のプラスティネーション標本の工程とか……素人は検索しないほうがよいのですよ。でもオオカミちゃんは見たことがあります。オオカミちゃんは平気です、有能なので」

 

赤ずきん「ああああああああああ何やってくれてんだあのくそババア!!!!」

​  ――終劇。

暴言少女メロぴょん

兵士「陛下」

 

女王「何じゃ?」

 

兵士「不審な女が城に闖入いたしまして、ただ今捕らえました! ユザワヤの買い物袋を所持しておりまして、陛下のお命を狙ったようでございますが……そのー」

 

女王「何じゃ。申してみよ」

 

兵士「陛下に会わせろと申しております。いかがいたしましょう? 」

 

女王「牢に入れて明日辺りに公開処刑すればよかろう。いちいち会っていては身が持たぬ」

 

兵士「あっ!!! あいつ勝手に入ってきやがった!!……陛下! こやつです!」

 

女王「うわ、ださっ……」

 

兵士「はっ! どう見てもこやつのファッションはパリコレのコロッケ服以下であります!」

 

女王「いやな感じでにやついているし……なんなのこいつ」

 

メロぴょん「ねえそこのおばちゃん! おばちゃんが女王?」

 

女王「ああ、わたくしが女王である」

 

メロぴょん「なんだ大したことないじゃん」

 

女王「はい?」

 

メロぴょん「ファッションバトルクイーンって聞いてたのに、ブランドで固めりゃ間違いないって勘違いしてるおばちゃんじゃん。がっかり」

 

女王「は?」

 

メロぴょん「TGCとかみないっしょ、おばちゃん」

 

女王「卵かけご飯なら今朝も食べたが」

 

兵士「(小声で)陛下、それはTKGでございます」

 

メロぴょん「おばちゃんはそういうの見ないよね、無茶ぶりでしたーめんごめんご」

 

兵士「おばちゃん言うな! 不敬であるぞ!」

 

メロぴょん「ケミカルウォッシュの裾三つ折りジーンズとGジャン着てる男にいわれても全然響かないんですけどぉ。つか、そういうの、現存したんだ、超ウケる」

 

兵士「これが制服なのだから仕方ないではないか! 着とうて着とるわけではないわ!!」

 

メロぴょん「(純真そうに)誰がそのくそダサい制服に制定したん?」

 

兵士「それは……女王陛下が『一周回ってこれがマブい』とおっしゃってお決めになった。我々は、……ちょっと違うんじゃないかって気もしたんだが……」

 

メロぴょん「(爆笑して)ウケる。おじさんかっわいそー」

 

女王「うぬぬ、言わせておけばぺらぺらと……そういうそちこそ鏡を見たことがあるのか? かなりひどいぞ」

 

メロぴょん「おばちゃんのセンスで判断されても困りますぅ」

 

兵士「(素で)俺TGC見てるけど、やっぱりお前のはひどい。幼稚園児の工作レベル」

 

女王「40年前のソーエンヌ賞応募作品くらいひどいぞ」

 

メロぴょん「そんな昔の話されてもわかんない。そんなん知ってるのBBAだけじゃん」

 

女王「ユザワヤの常連ということはソーエンヌのバックナンバーも熟読しておるかと思うたが」

 

メロぴょん「40年前って、古いにもほどがあるじゃん。おばちゃん通り越してBBAかよ」

 

兵士「BBA言うな! BAN喰らいたいのか!」

 

女王「とりあえず、静まれ。そち……名は何という」

 

メロぴょん「(なめ切ったテヘペロ感で)メロぴょんでぇす」

 

女王「TPO的にはそちの服装はダメダメである。とりあえず処刑である」

 

  SE:スマホで連写する音

 

メロぴょん「何撮ってんの」

 

女王「これ、プチ処刑用にインスタに上げとく」

 

メロぴょん「ちょっと待ってよ。おばちゃんのフォロワーっておばちゃんのテイストしか理解できないくそダサい奴らじゃん。絶対袋叩きで拡散するっしょ。ばりばり不公平じゃね?」

 

女王「では公平を期して、そちの単独出演ファッションショーをやろうではないか。老若男女エントランスフリーで、三面ワイドスクリーン、場外モニターでのビューイングも可能にして」

 

兵士「あ、見事な公開処刑っすね」

 

メロぴょん「え、でも支度とか時間かかるし!」

 

女王「このわたくしをさんざんコケにして、今更しり込みというわけか」

 

メロぴょん「……三日! 三日ちょーだいよ!」

 

女王「逃げるのか小娘」

 

メロぴょん「逃げねーし! だったら親友のセリっちを人質にしてやってもいいし!」

 

女王「セリっち?」

 

メロぴょん「セリっちは、うちが何着てても、笑いながらファッションセンス最高っていつも言ってくれるし!」

 

兵士「それは……そいつがセンス悪いか、性悪だからだと思うぞ」

 

女王「わかった。その条件を飲もう。三日与えるからセリっちとやらを人質として預かる」

 

 SE:スマホの通話音

 

メロぴょん「(その場にいる人間を完全無視してスマホで通話をはじめて)……あーセリっち? おっはよー! ちょっと話があんだけど、今から王宮来ねえ?」

 

 ――終劇。

――たぶんつづく

bottom of page