照葉樹林
Syou You Ju Rin
EYAMA, Makomo's Personal Portfolio of
original drawings and novels
道の端で、きらり
それは、道の端に落ちていた
華やかな艶
透き通るあでやかな赤
陽の光をうけて輝く石
それは、欲しくなるすべてを備えていた
幼かった私は手を伸ばし
この宝玉をつまみ上げた
その途端
異様な感覚に悲鳴をあげて
私はそれを放り投げた
不吉なねばつき
甘ったるい香り
許しがたい不道徳
それは、誰かが吐き出した飴だった
小さな白い壷
私は大人である
大人であるから
子どもよりはお金持ちである
駄菓子屋で豪遊なんて
オチャノコサイサイなのである
私が子どもだったとき
「これ食べたい」と指差したのは
壷型の容器に入った謎の白い油脂
クラスのみんなが食べていて
私だけが食べたことがなかった
けれど、母は顔を曇らせた
「ねえ、他のにしたら?」
もう私は大人である
大人であるから
何を食べてもいいのである
駄菓子屋で憧れていた菓子を買うときは
箱買いが大人のたしなみである
あれほど食べてみたかったそれを
匙ですくう胸の高鳴り
そして、恭しくひとくち
なんだこれ
母の表情の理由
大人の口の奢り高ぶり
これをうまいうまいと食べていた小学生たちの
なんと愛らしいことよ
どうすんだよ、この残り
ふははははは
ふはは
ふははははははははは
たまに高笑いしたくなることがあるだろう
悪さ丸出しで
その悪さってのが
頭の悪さであったり
察しの悪さであったり
気持ち悪さであったりしても
全然構わん
なぜなら今
私は悪の権化であって
その属性がどうこうというのは
些末なことであるからだ
悪というものは、笑うものなのだ
笑いによって免疫システムを活性化させ
憎まれっ子は世に憚るのだ
ふはははははははははは
何がしたくて何が言いたいのかわからんけど
すごく気持ちいいぞ
ふはははははははははは
黒色矮星
彼女は美人だ
細身でモデルみたいな体形なのに
かなりの大食漢
がばがば食べても太らない
そしてあっけらかんとこう言う
「あたし便秘なんだよね」
「もう一週間は出てないよ」
私は
彼女の食べた量を思い
彼女の腹回りを見る
おそらくあそこには
天文学的な質量が条理を超えた密度で詰まっているのだ
それはスプーン一すくいで便器が粉砕され
下水道配管を破壊してしまうにちがいない
私は彼女に
「黒色矮星」
というあだ名をつけている
もちろん、怖くて言ったことはない
ライター、潜水士の街へ行く
私はゲーム課金はしない
有料のコンテンツは絶対に使わない
趣味にお金を掛けたくない
なので自分の作品が有料で売れるなんて思ってない
売れないのが当然
私だって買わない
そーゆーこと言うと
怒るワナビさんがいるんだよなあ……
自分で金払いたくなるような作品書けよ、失礼だろって
誰に対して失礼なの?
あなたに?
わけがわからない
ただ
求道的にもがき苦しむ人しか認めない物書きも
いるということだけはわかったよ
あなたが自分で金を出したくなるようなのを書けばいいだけ
そして私はけちでなまけものなだけ
ダイバーシティは、潜水士の街じゃないんだよ
おしるこの匂い
お昼どき
ぼんやり歩いていると
甘いあずきの匂いがした
それはとある家の
お勝手から流れてくる
え、お昼におしるこ食べるの?
おしるこはおやつではないの?
これだから甘党は
そう思いながら
自分自身もお腹が空いているのに気づく
どんなに悲しいことがあっても
つらいことがあっても
お腹は空くんだな、と
自分を生かしておくための欲求が
卑しく思えて
私が打ちひしがれるべきものごとに対し
ひたむきでないしるしである気がして
泣きたくなってしまう
呪い
すごく悲しいことが起きたとき
多くの人に慰められた
そのときわたしは
お前らに何がわかる
と噛みつきたいのを我慢していた
わたしのくるしみもかなしみも
わたしだけのもの
わかったふうな口を利くな
だけど
今はね、言いたいよ
おめでとう
事もなく
健やかな人たちよ
あなたがたが悲しみや苦しみから
遠く離れていられますように
皮肉でもなんでもなく
心からそう思うよ
制服
ありがとう、制服よ
真《まこと》の学力や心根や愛らしさの如何を問わず
私に学生という価値を付与してくれた衣《きぬ》よ
着ているだけで
未開拓な心身という
一部の連中によだれを垂らさせる
ようわからん属性も追加される
雨に濡れるととんでもないにおいがするのだが
なによりありがたいのは
着る者の心を守ってくれたこと
見目よい服を毎日取り換えて
着けることのできぬ貧しさ
服を持ってはいても
垢抜けぬどころか垢まみれのセンス
それを笑う者たちから
思春期の心を守り抜いてくれたこと
乳のエロさについて
グラビアのマイクロビキニの
おねーさんの胸っていいよねえ
タニマ、ヨコチチ、シタチチ
なめらかでまろやかなお肌
圧迫された肉の段々
どこをとっても
とってもエロい
乳首が見えなくても
この膨らみだけで十分エロい
ご飯三膳は行けるね
ここで膨らみを完全に隠し
乳首だけ露出した場合
エロいというより可笑しい
よって乳のエロさは膨らみにあるのではないか
と思って一人合点していた小学生時代
しかも自分は女子だってとこがなんとも
変な虫
嫌いな人が嫌いな言動を繰り返しているのを
珍しい虫の習性だと思って眺めると
なかなか趣深い
博物学的に面白いし微笑ましい
絶対に好きになれはしないけども
うるさく飛び回り
いちいち私の神経をちくちく刺して
やることなすこと見苦しかったりするから
スリッパで叩き潰して
トイレに流したくなるのもご愛嬌
それが生き物の多様性というもの
少々悪趣味だと思いながらも
こうやって折にふれ
変な虫を観察してみている
その性質は変わらないのか
それとも新しい発見があるのか
くぼみ
深いえくぼを見ると
箸を突き入れて
深さを測りたくなる
へそのくぼみを見ると
ビー玉を押し込んで
ドアチャイムのように連打したい
握りこんだこぶしの皺を見ると
指を割り込ませてぐいぐいやって
隙間を拡げたくなる
ヒトの体のちょっとした穴を見つけると
なにかむぎゅむぎゅと
突っ込みたくなってしまう
突っ込んでみるとまことにたのしい
だから、私が女に生まれたのは
私を性犯罪者にしないための
神様の情け深い思し召し
夜半の雨
明けない夜はない
止まない雨はない
どの口がそれを言うか
真っ暗な夜の中で
雨に打たれているわたしは
陽の光の中
青空を見ているあなたのような人間に
そんなこと言われたくないんだ
さらば、友よ
月を見る
丼の中の月は
円くやわらかく輝いている
鰹と昆布の香る出汁に
漂う豊穣の金色
ここで連れが無粋なことを言う
「え? 月見、潰さないで食べる派?」
連れの丼を見ると
黄金の月は無残に崩され
澄んだ出汁は濁りきっている
何という痛ましさ、惨たらしさだろう
更に言う
「最後にちゅるんと飲む派? 行儀悪くね?」
貴様こそ
人類の叡智の結晶である出汁の
澄み切ったうまみと
美しき月のコクとまろやかさを
ぐちゃぐちゃに混ぜたくって
双方を穢し、冒涜しとるだろうが
もう二度と共に食卓を囲むことはないだろう
さらばだ、友よ
もらいもの
うちの庭には
野鳥が持ってきた植物群がいる
草イチゴは
そのへんの藪にたくさんあるけど
これも何かのご縁
たくさん実がなればジャムにしよう
ちっこいサクラはヤマザクラ
病害に強く風雅な野生種
鉢に植え替えて小さく仕立てる予定
実は果実酒にいいらしい
ビワは私の背をはるかに超えた
きっとあと少しで実をつけてくれるので
ビワの実を買わなくてすむようになる
持ってきたのはたぶんカラス
ナンテンは難を転じてくれる縁起物で
お重に料理をつめるときに
一枝添えると見違えるように
ルックスをよくしてくれる
ちびっこのトネリコやマンリョウもいる
ピラカンサはお引き取り願いたいけど
苗木を買うとみんな
それなりの値段がするから
よかった、よかった
ピリピリ
某温泉で薬膳風呂なるものに入った
備前焼風陶器の湯船に
煮出された和漢の生薬には
生姜と唐辛子が配合されていた
ちょっと警戒はしたのだが
体を温める効能があるらしいし
こんなオシャンティスパに
変なコンテンツはないだろうと信じた
くさいのを我慢して浸かってると
ちょっとした擦り傷切り傷はもちろん
体の開口部という開口部が
ピリピリと少しずつ
……果ては盛大に痛み始めた
慌ててシャワーですすぎ
痛みが和らぐよう他の風呂に入っても
ピリピリは治まるどころか
熱い湯がしみてしみて
風呂から上がったあとも
下半身は焦熱の責め苦だった
あの風呂は、
マゾヒスト風呂に
改名すべきだと思う
すくう
天に構えられた
大きなポイが
わたしたちを
すくおうと狙っている
すくわれて
帰ってきたものはいない
あれにすくわれたら
どうなるんだろう
ああ、青空を壊して
ポイが来る
わたしたちの命を
おもちゃにするものが
面白がって世界をかき回す
こわいよ たすけて
全部君のせい
嫌なことだらけなので
全部君のせいにすることにした
最初こそ
悪いのは君だと
自分に言い聞かせていたけど
今はもうナチュラルに
君は絶対悪だと思える
それでだんだん君が憎く
かつ、面白くなってきた
お仕置きに君のあれやこれやを
ネットの至るところに
ばらまいといたよ
悪は糾弾されなければ
ならないよね
大義があることって
何て素晴らしいんだろう
ああ、楽しいな
胸やけ
エレガントな紳士が、メニューを閉じながら言う
「君、
『恋愛感情はひとかけらもなく、どろどろの肉欲だけで繋がっている男女のピロートーク』
はあるかね?」
ギャルソンは答える
「はい、しっかり熟成して芳醇な香りのものがございます」
「ではそれをひとつ、くれたまえ」
「かしこまりました」
ファビュラスな淑女が、メニューを閉じながら言う
「あなた、ずいぶん重いものを召し上がるのね
わたくしは軽めに
『恋愛感情なんて1mgもなく、打算だけで相手に身を委ねる女のモノローグ』
をいただこうかしら」
ギャルソンは微笑む
「本日、極上のものをご準備いたしました」
「あら、それは幸運ですわ」
平々凡々な娘が、メニューを閉じてもじもじする
「あのぅ、
『親友と大好きな先輩の間で揺れる少女の恋の、送れなかった告白メッセージ』
お願いします」
ギャルソンは口元を歪める
「胸やけなさったり
血反吐をお出しになるお客様が
大勢いらっしゃいますが
そのご注文で間違いございませんでしょうか」
「はい」
紳士が言う
「大人になるとそういうのは重くて消化できなくなってくるからな」
淑女も言う
「私もそうだったわ
若いうちにしっかり味わっておくといいわよ」
罪
世の中の嫌なことはぜーんぶ
私の美しさのせいだって思うと
生きるのがちょっとだけ楽だよ
雨で靴が濡れたのも
私の美しさに天が感涙したせい
あなたにふられたのも
世界に名だたる私の美貌に
あなたが怖気づいて身を引いたせい
世の中の疫病も環境破壊も
戦争も貧困も犯罪もみーんな
すべてを凌駕してなお余る
私の麗しさが原因
あははははは
ごめんねぇ、みんな!
謙虚
わたしねえ
簡単に手に入るものしか
欲しくないの
手に入れるためにあくせく努力するのって
わたしらしくないじゃない
努力しても手に入らなかったら
バカみたいじゃない
あくせくするのは
バカに任せるといいのよ
いい意味でも悪い意味でも
身の丈を知らないバカが
暑苦しく背伸びしまくって
世界を変えて行くのよ
そういう意味で
わたしは身の程を弁えてて
とても謙虚な人間だわ
博物館
かくりよの生きものの化石
うつしよの生きものの標本
彼らは静かにこう尋ねる
我、かく生き
かく空しくなりぬ
汝、如何に生き
如何に死すべしや
博物館は畏敬の神殿
そこで私たちは
生命の産声から三十六億年を
ひとときにて知ろうと足搔き
遺伝子の神託を聞く
ホームの幽霊
その日私たちは駅のホームにいた
彼はとても疲れていた
彼がふらふらと前に出る
私が襟首をつかんで思いきり引っ張り
やめなさい、と囁くと
彼は目が覚めたように
驚いた顔できょろきょろする
ここでこうやって
何人引き止めてきただろう
生還おめでとう
生きる人々に祝福あれ
そして生きていく勇気よ
彼らと共にあれ
私のようになってはダメなんだ
安全運転を
心がけましょう
あなたがいなければ
私たちは今日も
ごく当たり前の幸せな家族として
暮らせていたはず
あなたさえいなければ
私たちは今日も
みんなでご飯を食べ、たわいない会話に
笑いあえていられたはず
返してください
私たちのごく普通の日々を
私の家族を
光と闇の戦士、現代版
ふふ……甘いな
タピオカミルクティーより甘い
我々の組織に入りたいと言うのか
9時5時勤務で年休代休病休が
保証されている光の戦士を
毎日行くのがめんどくさいという理由で
あっさりと辞めた貴様ごときが
常態で家に帰れず3連勤
平均睡眠時間4時間のほとんどを
土日だけで摂ってしまう
漆黒の戦士たる私は
貴様を愚かというよりほか
言葉が見つからない
この、面接という暗黒のコロシアムは
ハゲワシが使い捨ての戦士を漁る場だ
貴様はそれを知らない
ああ、無知とはなんと恐ろしいものか
なぜ、なぜ光の戦士を辞めたのだ
あそこ以上の福利厚生は
もうどこにも望めぬぞ
いっそ、私と代わってほしかった
回帰
じゃあ、インクをもらうわね
この壁、私が描いたの。きれいでしょう?
白い壁に黒が映えるわよね。
セピアやブラウンの濃淡もいいアクセントだわ
でも、これね、ブルーブラックインクみたいに
だんだん黒っぽくなって最後は真っ黒になるの
だから、ときどき描き足して
色を加えていかないとだめなの
じゃあ、インクをもらうわね
このぼかしも、難しいと思うでしょう?
でも簡単なの
白い壁に、溶けたチョコレートを垂らして
ふき取るのを想像してみて?
跡が伸びて残るでしょう? これも同じよ
脂が多く含まれてるから伸びがいいの
チョコレートって、我ながらいい例えだわ
でも、チョコレートよりずっと希少なものを
あなたは温かいからだの中に持ってきてくれた
じゃあ、インクをもらうわね
え? これは何の絵かって?
そうね、まだ完成していないから
わかりにくいかもね
これはあなたも私もよく知っているもの
生まれる前に見ていたものよ
うふふ、わからないの?
私たちみんなを温かく優しく包んでいた場所よ
まだ何か訊きたいことはある?
もう声も出ないかしら?
いい子ね、さいごにキスしてあげる
インクをありがとう、素敵な旅を
ぴゅあぴゅあ不良
やんのか
やるっつってんのか、この俺と
まじでやんのか? あ゛あ゛?
……っつーかさ……
俺たち、出会ってから
まだ五分も経ってねーじゃん?
そんなよく知らねー相手と
やる……っていうのは
よくないと思う
自分を大事にしたほうがいいって
や、やっぱりさ……
お互いのことよく知って
順序を踏んで
それから、その……
まず、さ……
おともだちからってことで
いいかな
アムブロシアー
剣は折れ、盾は破れて
私は地を赤く染めて倒れる
私にとどめを刺そうと
刃を突きつけるもう一人の私に
苦し紛れに呟く
「ふ……よかろう
好きにするがいい……
だが……いつか
後悔する日が来るぞ……
主に……検診の前後にな……」
そうやって
理性を司る自分を
熾烈な戦いの末に倒して
深夜に食べるラーメンは
背徳のアムブロシアー
ぐるぐる
あのう
ほんとにどーでもいいんですけども
アニメとか漫画に出てくるうんこって
きれいに巻いてあるじゃないですか
あんなにうまく巻けるもんなの?
あんなに巻けるってかなり長くない?
みんなも普通に、あんなに長いの?
サーバーからソフトクリームを
むにゅううううううっと出して
コーンの上でぐるぐる巻きながら
そんなことを思いました
ひざとごぼう
子どものころ、ごぼうが嫌いだった
固くて
見た目も口当たりも
木の根っこみたいで
土臭くて
子どものころ
ごぼうの匂いは
ひざの匂いにそっくりだと思っていた
友だちと畦道や里山を駆け回り
楽しかった一日の終りのひざの匂い
大人になった私は
ごぼうが好きになっている
歯ごたえも
食物繊維を含んで
体に良いところも
懐かしい風味も
あの頃の遊び場はなくなり
私は街中に暮らしている
あのひざの匂いを思い出そうとしても
記憶の保管庫には
過去の存在を示すラベルがあるだけで
実体はもうない
今、ひざは何の匂いもしない
ごぼうの匂いは野の匂い
鳥が囀り小川に魚が泳いでいた
子どものころを思い出すよすが
風と光の届かぬところ
風を感じることが
どれほど爽やかに心地よいか
陽光にぬくもることが
どれだけ優しく癒しをもたらすか
それが普段
外気にさらさない部位であり
更に体の構造上
通気の悪いところであれば
尚更のこと
気の赴くまま脚を広げ
下半身に当てる風と光
そこには神の祝福が溢れている
人類よ、これが自由だ
うぇーい
挽き肉の一粒
挽き肉のこぼれたひと粒を見て
これだけの組織を
自分の指から切り取ったら
どんなに痛いか
そんなことを思ってしまう
指には痛点が集中してるから
他のところにしたほうがいい
なんていうこともちらっと頭をよぎるけど
牛も豚も鶏も
温かい血の通う生きもの
撫でさすってやるとうれしそうにして
後をついてきた可愛らしい生きもの
肉だけじゃない
茶碗にこびりついて洗われた末
食べられることなく排水口に流されていく
ご飯粒やちりめんじゃこも
生命を持った一個体だった
毎日の暮らしの中で
ともするとそのことを
忘れそうになる
食べものを大切にしよう
お茶菓子
マシュマロを食べた
柔らかくてふかふか
低反発の寝具によく似ていた
月世界を食べた
軽くてぱすんぱすん
発泡スチロールによく似ていた
ブッセを食べた
ざらっとしてもしゃもしゃ
食器洗いスポンジによく似ていた
甘納豆を食べた
しゃりしゃりでほろほろ
納豆にはあまり似ていないね
鳥ではない何か
車で走ってたら道路に鳩がいた
とことこ歩いては何かを啄み
まったくもって傍若無人
歩くよりも遅いくらいに徐行しても
鳩は道を空ける気配がない
運転席で私が苛ついていると
助手席のあなたが言った
突っ込めばいいのに
私はびっくりして
鳩の命の尊さを口にする
しかしあなたは言い切った
大丈夫
車に突っ込まれて
逃げられない鳥はいない
轢かれた鳩を見たことがあると
私が反論すると
さらに答えて曰く
それは鳥によく似た
鳥じゃない何かだったんだよ
ビースト・テイマー
世の人がみんな楽しそうで
自分一人が
置いていかれたように思えて
なんだかつらい日
私は猛獣使いになる
胸の奥で暴れる何かを
鞭を振り回して
なんとか馴らして
それは醜くて愚かで
だからこそ愛らしい
抱きしめると
それはただ
ポロポロと泣く
私は泣かないので
それがただ
ポロポロと泣く
ファイッ!
みんな楽しそうに
それぞれの道を歩いていて
わりとダメな部類の人間の私は
それを眺めているのがつらい
だけど無理して
みんなについていこうとするのは
もっともっとつらい
わたしの道はまだないから
とりあえずこの藪の端っこに腰を下ろして
がさがさと吹く風を感じながら
鳴く鳥の声を聞いて
知らない草の名前を考える
そして
たまたま目があった
大きなかまきりさんとファイッ!!
Must Buy!
わたしね、今日は
トマトとピーマンとスパゲティの麺だけ
買うつもりだったから
ちっちゃいバッグしか
持って行かなかったんだよね
でもさ
どうしてくれんのよ
白菜が安いじゃない
これからの季節
だらけた主婦の食卓に頻出する
鍋料理にマストじゃない
何て新鮮な鰤のアラ
貴方に出会うためにここで待ってたって
澄んだ瞳で見つめられたら
籠に入れるしかないでしょ?
牛すじが安いなんて聞いてないんだけど
うちにちょうど大根があるから
おでんもいいなって思うと
買わざるを得ないよね
そんなこんなで収まらなくって
ポリ袋まで買う羽目になって
手に食い込む重さに耐えながら
家に帰って
戦利品を冷蔵庫に入れながら
その時初めて
スパゲティの買い忘れに気づいちゃうんだなあ
ねたみちゃん
フォロワー、フォロイーさんたちが
好きなものについてツイートする
それは例えば
お菓子であったり
本であったり
TV番組であったり
とてもささやかで屈託のないそれを目にすると
「ちょっと待って、私とどっちが好きなんだ」
と怒鳴り込みたくなる
理性で抑えてはいるけれど
私がそんなめんどくさいやつだとは
誰も思っていないだろう
ふふふ
待てやこら
いいアイデア浮かんだ!
と思った瞬間消えていく
それはまさに流星の光跡
いいアイデアが浮かんだはず
ただその事実のみ記憶に残し
脳に広がる闇空に
跡形もなく溶けていく
おい
待てやこら
アポトーシス
アポトーシス
素敵な言葉だよね
声に出してみよう
アポトーシス
何てロマンティックでサイエンティフィークで
14歳のハートをくすぐる言葉だろう
なにか小さなものが
何らかのために
ちょっとずつ死んでいくんだけどね
そういうことはどうでもいいんだ
私の故郷では
うんこのことを「あぽ」と言う
そういうのもひっくるめて
エモく、エモく、呟いてみよう
アポトーシス
たんぽぽ
たんぽぽは私の足元を見て言う
吹けよ
吹くと楽しいぜ
ふわっふわだぜ
ほんとは吹きたいんだろ
ほら、吹けよ
私はたんぽぽをじろじろ見て言う
あんた、よくできてるね
神の創り給うた生き物は
さすがだね
どうでもいいけどあんた
犬のおしっこが掛かっていそうだね
私とたんぽぽは
やはりわかりあえない
犬が吸いたい
犬が吸いたい
シャンブーしたてじゃなくて
イヌイヌしい匂いのやつ
誰にでも尻尾振るやつも悪くないけど
ちょっとどん引いた顔した個体がいい
その表情はまさにごほうび
コイヌのあどけない匂いも
オトナイヌの芳醇さもいい
奇声を上げながら
頭や耳や腹や肉球を吸いまくりたい
そしてとことんキマりたい
ああ、犬が吸いたい
吸いたいんだよったら
月夜の魚
月がきれいだと
体の中が澄んでいく気がする
澄んだその奥には
ぬるっと黒い魚が見つかる
それは獰猛で
なんでもかんでも
食い荒らしてしまう
そのくせ
魚は諦めた目をしている
月明かりのさざ波の下
しょぼしょぼと
さびしそうに