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美少年メタスタティカ

 

*登場人物(女性3 男性1)

博士:熟しきった熟女。残念な天才。

A:熟女。博士の助手。比較的真面目。

B:熟女になりかけている。博士の助手。いささか生意気。

美少年博士:博士が美少年になった姿。とにかく耽美な声。オネエ風ではなくナチュラルな女言葉。

 

*場

博士の研究所。


 

*注意事項

台本ジャンル:コメディ

BGMはお任せ。

A・Bには適当な名前を入れること。

猫のみーちゃんは、「犬のコロちゃん」「フェレットのくーちゃん」など、サバトラは「白黒のブチ」「真っ白」「ブルーポイント」など自由に変更可。

 

*以下本文

 

博士「やった! やっとできたわ! 完成だわ!」

 

A「やりましたね! 博士!」

 

B「おめでとうございます! っつーか、何ができたんですか?」

 

A「え、あんた知らないで作業してたの?」

 

B「じゃあAさんは知ってたんですか?」

 

A「うん……(わやわやな口調で)なんか画期的なアンチエイジングの経口薬……ですよね、博士」

 

博士「違うわよ。あんたたち私の研究をなんだと思って働いてきたの?!」

 

A「実証実験やったの、博士ご自身じゃないですか。私たち、説明もなしにクロマトグラフィーばっかりやらされてましたし……とりあえず、材料から若返りかなんかの薬だと推測してましたけど、肝心なところは何にも言ってくださらなかったでしょう?」

 

B「そうですよ! イミフな材料づくりばっかりさせられて、でも、全然情報がシェアされなくて、全体像が見えませんでした」

 

博士「そうだったかしら?」

 

B「そうだったんですよ! ホウレンソウを大事にしてくださいよ!」

 

博士「ホウレンソウは好きよ。スパゲティに入れたりベシャメルソースでグラタンにしたりすると最高よね」

 

A「博士、何をおっしゃってるんですか?」

 

博士「せっかくだからノッてよぅ」

 

A「やれやれ……じゃあつきあってあげますけどね、ホウレンソウなら白和えとごま和えでしょう」

 

博士「そうそう」

 

B「その調子でチンゲンサイとかコマツナとかのビジネス用語おやさい談義が始まると長いので、とっととできたもん見せてくださいよ」

 

博士「いかのおすしの話もしたかったのに」

 

A「それはビジネス用じゃなくて防犯用食品ですよ」

 

B「Aさん、そうやって相手するから博士がこんな風になるんですよ」

 

博士「失礼ね」

 

A「そんなことより、何ができたのか教えてください」

 

博士「ふふふふふ、聞いて驚かないでよ? ……この薬はね、30分だけ、絶世の美少年になれる薬なのよ!」

 

間。

 

B「博士、薄い本が好きすぎて頭おかしくなっちゃったんですか?」

 

A「Bさん、そういういい方は失礼じゃないの。曲がりなりにも目上の方に」

 

B「じゃあ訂正します。肌色の多い薄い本が好きすぎておかしくなっちゃったんですか」(肌色の多い、をかなり強調して)

 

A「(悲愴感を漂わせて)そうね……多分、そうだと思う。お気の毒に」

 

博士「おかしくなんかなってないわよ! 美少年は女子の見果てぬ夢じゃないの! なんで食いつかないのよ」

 

A「(困惑気味に)だって、ねえ」

 

B「(半笑いで)ですよねえ……で、実証実験はどうだったんですか?」

 

博士「うちのみーちゃんに飲ませたわ。うちのみーちゃんはね、サバトラのシュッとしたオスがタイプなの。これ飲ませたら、サバトラのオスに30分だけ変身してたわ」

 

A「マジですか……よその猫が入り込んできたのを見間違えただけとかじゃないんですか」

 

博士「私はベテラン科学者よ? 疑うの?」

 

A「(疑わし気に)疑ってなんか……いませんけど」

 

B「(疑わし気に)……あのー、博士、……実証実験、その一例だけってわけじゃないですよね?」

 

博士「悪い?」

 

A・B「(A・B同時に)えっ」

 

博士「なによー! もう! 信じないっていうの?! いいわよ、あなたたちの前でこれ飲んで見せるから!」

 

SE:なにかを飲み込む音、少ししてからいかにも「変身しています」的なファンシーな効果音

 

A「わあっ!」

 

B「ひゃあっ!」

 

美少年博士「ほらね! よくごらんなさい!」

 

A「あー、変身……マジだったんですね」

 

B「うっわー、残念な天才の本領発揮ですね」

 

美少年博士「どうよ! この美しさ! 美輪明宏の少年期とか、ビョルン・アンドレセンも真っ青でしょ? (うっとりと)ああ、我ながらなんてステキなのかしら……鏡舐めたくなっちゃう」

 

A「(棒)あー、まあ、美少年……ですよね」

 

B「(棒)うん、まあきれいっちゃーきれいですね」

 

美少年博士「なによ、あんたたちノリ悪くない? こんな老若男女を魅了する美少年を前にしてるってのに、もっと鼻息荒くなるとか、涎垂らすとかできないわけ?」

 

A「いやー、私中性的な美少年とかって趣味じゃないんで」

 

B「私、そもそも未成年に涎垂らすとか常識ある大人のすることじゃないと思ってるんで」

 

美少年博士「残念なものを見る目で見ないでくれる? 今の私に向けていいのは賛美と情欲にたぎった眼差しだけよ」

 

B「マジないわー」

 

美少年博士「あんたたちも飲んでみなさいよ! 美少年のよさがわかるから」

 

A「イケオジになる薬だったら喜んで飲みましたけど、美少年じゃちょっと……」

 

美少年博士「は? おっさん? おっさんになる薬なんて作るわけないでしょ、モチベのモの字も湧かないわよ」

 

A「いいじゃないですか、おっさん! 酸いも甘いも噛み分けて、女馴れしてちょっとワルめかと思いきや、時折見せるシャイで一途な一面とかキュンキュン来ますよ」

 

美少年博士「何それくっさ! 加齢臭がぷんぷんしそう……美少年は薔薇の香りよ? ほら嗅いで、どんどん嗅いで」

 

A「結構です。加齢臭は最高にエロいじゃないですか。ねえ、Bさんもそう思うでしょ?」

 

B「他人の匂いとかきしょいんで嗅ぎたくないです」

 

美少年「とにかく、この耽美な姿の前には誰だってひれ伏すわ。世界征服も夢じゃない」

 

A「30分で世界征服?」

 

美少年博士「薬を飲み続ければいいのよ」

 

A「体壊しますよ」

 

美少年博士「大丈夫、副反応とか用量依存性とかないから」

 

B「博士、たった一例しか実験してないって言ってましたけど本当に大丈夫ですか」

 

美少年博士「大丈夫。私天才だから」

 

A「まあ、こういう薬を作れたこと自体は天才ですよね」

 

B「つーか、博士、美少年になって何がしたかったんですか? ちやほやされたかったんですか?」

 

美少年博士「ちやほやっていうより、単に美少年を愛でたいの! 美少年は正義!」

 

A「それは、自分を愛でたいってことですか?」

 

B「うっわー、きっつー」

 

美少年博士「いいじゃない……(泣き出す)好きなんだもん……そりゃあ、私はいい歳ぶっこいたおばちゃんだけど、美少年と一心同体になれて、うれしいんだもん……」

 

A「ご趣味は否定しませんけど」

 

美少年博士「(うっとりと)ああ、涙を流す顔まで美しいんだわ、私……。瞳からこぼれるダイヤモンド……まさに、美の中の美だわ。(けろっとして)ねえ、白衣の下はなにも着ない方がいいかしら? どう思う?」

 

A「あーあ、イケオジだったら素直に同意できたんですがねえ。それはそうと、……なんか焦げ臭くないですか?」

 

B「ほんとだ……博士のデスクの方から?」

 

A「あっ、PCに火が」

 

SE:小さな爆発音 何かが燃える音

 

美少年博士「あっ、薬のデータが!」

 

A「だめだわ、火柱が立ってる」

 

B「もうこれは無理っぽいですね」

 

美少年博士「あああああ外付けまで…… バックアップも全部これに入れてるのに!」

 

A「あらら」

 

B「博士、やめてください! あぶないですよ!」

 

美少年博士「データが救えないんだったら私も一蓮托生よ!」

 

A「もう間に合わないわ、Bさん、博士を引き離して」

 

B「はいっ」

 

A「消火器! 消火器!」

 

美少年博士「いやああああ、私の最高傑作があああああ!!!」


 

SE:立て続けに小さな爆発音、消化器の音、静寂

 

A「どえらくピンポイントなボヤでしたね」

 

B「イイ感じに消火器の粉まみれですね」

 

美少年博士「(めそめそと)ああ、Windows98を使い続けていたせいかしら……素直に買いかえればよかった」

 

A「マジですか」

 

B「そんなのでうちのラボの研究情報を全部管理してたってのが、一周回ってものすごい管理能力ですね。さすが天才」

 

美少年博士「ええ、天才よ……でも……(泣きべそをかいて)美少年になる薬……もう作れなくなっちゃった……」

 

A「大体の成分は覚えてるでしょう? また作れますよ」

 

美少年博士「無理……あの配合比再現するの、もう無理……」

 

B「98による一点集中管理ラボの悲劇ですね。ところで、そろそろ30分経過しますよー」

 

SE:鳩時計の音、しょぼい変身効果音

 

博士「戻っちゃった……」

 

A「気分はどうですか?」

 

博士「体調はいいけど、もう二度とあの美しい姿になれないと思うと死にたくなるわ」

 

A「まあ、博士は天才ですから、生きてりゃ何とかなります。今度はWindoes10か11でも買ってボチボチやりましょう」

 

博士「そうね……そうしましょう。私は天才だから」

 

B「あのー、天才なのにスパコン買わないんですか?」

 

A「博士は天才だけど、お金はないのよ。私たちの給料だって今月払ってもらえるかどうか……私、いつ労基に駆けこもうか考えてたところだったの」

 

B「奇遇ですね、私もです」

 

博士「科学が拝金主義に屈するのは私は恥ずべきことだと思うの。あんたたちだって研究に身を捧げられることこそが幸せで、お金は二の次でしょ」

 

A「何て黒いお言葉……」

 

B「お金の話はダメなんですか? 美少年に化けてた時のルッキズムはOKなのに」

 

博士「美少年はいいのよ! すべてを超越するから」

 

A「さすが博士、ぶれませんね」

 

B「でもお金は大事ですよ? お金持ちだったら自分を無理やり美少年やイケオジにして愛でるなんてことしなくても、好みにあった男を簡単に落とせるんじゃないですか?」

 

博士「じゃ……じゃあ、つぎは飲めばお金持ちになる内服薬を作るわよ」

 

A「(溜め息をついて)うーん、ちょっと違うんですよ、博士」

 

博士「どこが?」

 

B「あのですね、普通に世のため人のためになる薬作って売ればお金は後からついてくるんですけど」

 

博士「えっ」

 

A「博士、何ハッとした顔してるんですか」

 

B「まさか、そう考えたことがなかったとか?」

 

博士「うん……目から鱗」

 

A・B「(A・B同時に)マジですかーー?!」


 

――終劇。

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