DressMaker
○登場人物
マリアンヌ・・・太った中年のオネエさん。洋品店経営でお節介のロマンチスト。
アズール・・・若者。礼儀正しい。女扱いに慣れていない。
ミドリ・・・若い娘。世間知らずで引っ込み思案。どのセリフもおずおずと喋る
○場
マリアンヌの洋品店
○以下、本文
SE:洋品店のドアベルの音。
マリアンヌ「いらっしゃい」
アズール「こんにちは」
ミドリ「こんにちは」
マリアンヌ「ゆっくり見てってね」
アズール「さあ、ミドリさん、好きな服を選んでください。弁償しますから」
ミドリ「すみません」
アズール「服が破れたのは僕のせいですから、謝らないでください」
間。
SE:洋品店のハンガーをカシャカシャする音。(入手不能ならなくてもよい)
ミドリ「じゃあ、これ、お願いしてもいいでしょうか?」
アズール「(疑わしそうに)本当にこれでいいんですか?」
ミドリ「(小さい声で)ええ」
マリアンヌ「これは……うーん、お手ごろだけど、どう見てもハーベストエイジのマダム向けよ」
ミドリ「でも、これが一番リーズナブルなので……」
アズール「(ため息をついて、一着引っ張り出して見せる)……これはどうですか? こっちの方が似合うと思います」
マリアンヌ「あら、さすがお連れさん、わかってるわあ。こっちのほうがあなたの雰囲気にぴったり! ちょっと着てみなさいな。あ、このベルトとヘアバンドも着けてみてね」
ミドリ「はい」
SE:カーテンの音、ごそごそ着替える音
マリアンヌ「(着替えが終わるのを待ちながら)可愛らしいお嬢さんねえ。男の子に服を選んでもらえるなんて羨ましいわあ」
アズール「……積んでた機材が崩れたせいで彼女の服が破れて、慌てて一番近くにあったお店に弁償しに飛び込んだだけですから、ロマンチックなこととか何もないですよ」
マリアンヌ「あらあら、それでお嬢さん、男物のジャケット羽織ってたのねえ。あなたのジャケット貸してあげたんでしょ? 紳士じゃなーい」
アズール「誰でもそれくらいしますって」
SE:カーテンの開く音
マリアンヌ「あらあ、やっぱり可愛いわあ! すてき!」
ミドリ「あ……ありがとうございます」
マリアンヌ「でもねえ、ちょっと、靴がねえ……この服にもっと合う靴があると思うのよね。ちょっと坊や、女性に服を選ぶなら靴までしっかり面倒見なきゃ。ほら、あの角、靴屋があるでしょ? わかる?」
アズール「はあ」
マリアンヌ「あそこにね、このワンピにぴったりなショートブーツが出てたわ。フリンジがついたやつよ」
アズール「(小声で)でも、ちょっと手持ちが……」
マリアンヌ「大丈夫よ。(ミドリに向き直って)ねえ、お嬢さん。あなたの着てきたワンピース、譲ってくれたらお代は半額にしてもいいんだけど、どう? 下取りだと思ってくれればいいんだけど」
ミドリ「え? でも、あれは破れてるし、(恥ずかしそうに)リサイクルショップで買った中古で」
マリアンヌ「いいのよ。 どうかしら?」
アズール「ミドリさん、嫌なら嫌だって言っていいんですよ」
間。
ミドリ「(しばらく考えて)下取り……していただいてもいいですか?」
マリアンヌ「ええ! 喜んで」
SE:レジの音。
マリアンヌ「ありがとうございました。また来てね」
アズール「ありがとうございました」
ミドリ「ありがとうございました」
SE:ドアベルの音。
マリアンヌ「(ため息をついて)あ~あ、このワンピ、今見るとダサいわねえ、縫製もなっちゃいないし生地もぺらっぺら……でも、ほんとに懐かしいわあ、昔一生懸命縫って、そして初めて売れた服。すっごく嬉しかった。今でもはっきり覚えてるくらいだもの。あの時の喜びがあったから、わたし、この仕事を続けてるのよね」
SE:ハンガーの音
マリアンヌ「(しみじみと、やさしく)おかえり、また会えてよかったわ」
――終劇。