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風に咲く花

*登場人物

夕樹(ゆうき)・・・27歳くらいの男性。気さくな話し方。朝樹の双子の弟。

風花(ふうか)・・・27歳くらいの女性。天真爛漫なようで芯が強い。

朝樹(ともき)・・・27歳くらいの男性。知的な話し方。夕樹の双子の兄。

母・・・・・・・・・50代の女性。風花の母。明るく元気な雰囲気。

 

*演じる上での注意事項

・作品ジャンル→恋愛要素のあるヒューマンドラマ。淡々と演じてください。

・無理に声を作らず、年齢設定に無理のない範囲で等身大の自分の声で。

 

 

*以下、本文

 

場:どこかのレストランの控室

BGM:ドアの向こうから聞こえてくる洒落たラウンジ風の曲

SE:ガヤ;ドアの向こうから聞こえてくる食器の触れ合う音、人のざわめき


 

母「よし、これでいいわ」

 

SE:衣擦れの音

 

風花「よかったぁ! 間に合って」

 

母「ほんっと、大変だったわ。裾踏んでレースがとれちゃうなんて。死ぬかと思った」

 

風花「だからごめんってー」

 

母「結婚式当日に、ドレス着た娘の足もとに這いつくばって裾直すなんて考えたこともなかったわよ」

 

風花「着るのは縫い終わってからでいいって言ったじゃない」

 

母「なに言ってんの。メイクとかヘアセットもあるのに、先に着ないと支度が進まないでしょ」

 

風花「(しみじみと)うん、ごめん」

 

母「もう髪とメイクは終わったの?」

 

風花「うん、お母さんが縫ってる間にちゃちゃっと」

 

母「ちょっと立って見せて」

 

SE:衣擦れの音

 

風花「どう? 可愛いでしょ」

 

母「傷はもう隠さないのね」

 

風花「うん。ずっと前髪垂らしてコンシーラー山盛りで隠してたけど、隠すのはもうやめるの。これが私だから。お母さんは、みっともないと思う?」

 

母「(しんみりと)……きれい。すごくきれいよ。私の娘とは思えないくらい」

 

風花「(笑って)ありがと」

 

母「みんなちょっとはびっくりするかもしれないけど……でも前髪を上げたヘアスタイルもよく似合ってる。素敵よ」

 

風花「でしょ。母さんが縫った唯一無二の最っ高のドレスを着るんだから、私も傷なんか気にしないで、顔をあげて歩きたいの。朝樹も賛成してくれたし」

 

母「……(溜め息をついて、少し寂し気に、しみじみと)ああ、本当に大人になったのねえ。幸せになってね」

 

風花「絶対なるって」

 

母「そうね、相手が朝くんなら大丈夫ね」

 

風花「さあ、お母さんも早く着替えなきゃ。幸恵ゆきえおばちゃんに留め袖の着付け、頼んでたんでしょ?」

 

母「そうそう! 急がなきゃ!」

 

SE:ノックの音

 

夕樹「もう入っていい? ブーケとヘッドドレス持ってきたんだけど」

 

風花「あ、夕樹? 入って!」

 

BGM・SE:曲・ガヤをSEのドアの開いたときに合わせて大きくし、閉じたら元の音量に戻す。これ以降もドアの開閉音ごとに音量を変化させる。

SE:ドアを開けて入ってくる音

 

夕樹「おおー、めちゃめちゃイカすじゃん」

 

風花「馬子にも衣裳って言いたいんでしょ?」

 

夕樹「(被せて)言わないって、そんな芝居がかった台詞」

 

風花「だってそんな台詞聞けるの、成人式と結婚式くらいでしょ」

 

夕樹「(呆れ気味に)はいはい。(母親に向き直り)あ、おばさん、お嬢さんのご結婚おめでとうございます」

 

母「ありがとうねぇ。夕くんも、お兄さんのご結婚おめでとう。なんか風花が随分わがまま言ったんでしょう? ごめんなさいねえ」

 

夕樹「花屋は花嫁さんのわがままには慣れてますよ」

 

風花「ねえ、持ってきたやつ、ちょっと見せてよ」

 

夕樹「はいはい。ブーケとブートニアはこれ。こっちがヘッドドレス。ご注文通りブラックセンターの白いアネモネで統一したよ。白の大輪だけこんなに揃えるの、大変なんだからな」

 

母「あら、シックね。素敵だわ」

 

風花「すごい! イメージ通りよ! ありがとう」

 

夕樹「俺、ここまで手作りな式に花を納入するの初めてだよ」

 

風花「子どもの頃から、結婚するときは自分でヘアメイクして、お母さんの縫ったドレス着て、まゆんちのレストラン借りて、もりたんにケーキと引菓子作ってもらってさ、夕樹んちにお花を頼むのが夢だったの。私の夢がぜんぶ叶ったのよ」

 

母「(しみじみと)風花は、ほんとに皆に愛されてるわよね。ありがたいわ」

 

夕樹「いい家族と友人に恵まれたね」

 

風花「うん、本当に」

 

夕樹「あ、そうだ、おばさん、向こうで親戚の人が探してましたよ」

 

母「あら、だいぶ待たせちゃったわ! これから留袖を着付けてもらう約束なの」

 

風花「着付け終わったらベールダウンに戻ってきてよ? ブートニアもあるし」

 

母「わかってるわよ。じゃあ夕くん、あとお願いね」

 

夕樹「はい。しっかり仕上げます」

 

SE:ドアを開けて出ていく音

 

風花「テーブルフラワーは終わったの?」

 

夕樹「うん、ご注文通りにね」

 

風花「あー、早く見たいなー」

 

夕樹「入場してからのお楽しみ」

 

風花「朝樹は着替え終わった?」

 

夕樹「うん、いまレセプションのとこでなんか上司の人と話してる」

 

風花「今どのくらい来てる?」

 

夕樹「20人くらいかな」

 

風花「もうそんなに来てるの? まだ早いのに」

 

夕樹「みんなそれだけ風花の結婚式楽しみにしてたってことだよ。酒井先生も来てた。懐かしかったなあ」

 

風花「私も皆と話したいー!」

 

夕樹「花嫁さんは入場まで姿現しちゃダメだろ」

 

風花「だってー」

 

夕樹「はい、とにかくヘッドドレスつけなきゃ。大人しく座ってろ」

 

風花「うん」

 

間。

ここから先の演技は、お互い間近での会話になるためすこし小声風に、ただし音量は落とさずに。

 

夕樹「アネモネは毒があって汁が肌に付くとかぶれるから、生花をヘッドドレスにするのはおすすめしないんだけどなあ」

 

風花「ハイ聞き飽きましたー。うまくやってくれるんでしょ、花屋さん」

 

夕樹「まあ、プロだからちゃんとカバーするけどさ。アートフラワーだったら楽だったのに。生花そっくりで見ただけじゃ見分けつかないよ?」

 

風花「この期に及んでごちゃごちゃ言わない。生花じゃなきゃ嫌なの」

 

夕樹「見た感じは同じなのに?」

 

風花「香りとか手触りとかやっぱり違うじゃない……見た目が一緒でもそこはこだわりたいの」

 

夕樹「(茶化すように)同じ顔してても、俺じゃなくて朝樹を選んだみたいに?」

 

風花「(おずおずと)え?……夕樹?」

 

夕樹「(被せて笑って)いや、そこ笑うとこだから。冗談なのにまじな顔されたら引いちゃうよ。……はい、出来上がり」

 

ここからは通常の発声でOK

 

風花「バックミラー、もうちょっとこっちに寄せてくれる?」

 

夕樹「こう?」

 

風花「んー、右から二番目の花の横んとこ、ベール浮いてない? Uピン追加してもらっていい?」

 

夕樹「よいしょっと。これでいい?」

 

風花「うん、キマッた」

 

夕樹「(少し溜息を吐いて)あとはおばさんにベールダウンしてもらってから会場入りかあ。緊張とかする?」

 

風花「緊張はしないけど……(間。少し考えこむように)ねえ、夕樹……朝樹はほんとに私でいいのかな? ほんとは嫌だとか言ってなかった?……」

 

夕樹「(被せて)前からその質問ばっか聞くよな。結婚式当日になってもまだ聞く? 朝樹が結婚するのって、風花の顔に傷をつけた罪悪感からだってまだ思ってるわけ?」

 

風花「ごめんね。でも、聞くのはこれで最後よ」

 

夕樹「……何度も言うけど、償うとか責任を取るとか、そういうの抜きで朝樹は風花のことめっちゃ好きだって。俺たちは双子だよ? 朝樹が考えてることくらいわかるって」

 

風花「……信じてないわけじゃないの。ただ安心したいだけなのよ」

 

夕樹「朝樹は風花と生きていくって自分の意思で選んだんだ。信じろ」

 

風花「(しんみりと)……ありがと」

 

夕樹「(笑って)俺、もう席に着いとくわ。じゃあな」

 

SE:ドアを開けて出る音。レセプションで流れている音楽・ざわめきが少し遠くに聞こえる。

 

朝樹「夕樹」

 

夕樹「あ、朝樹。何やってんの」

 

朝樹「ブートニア待ち。何がなんでも風花が自分の手で俺につけたいって言ってたからさ」

 

夕樹「そっか。じゃあ、俺向こうでなんか飲んでくるわ」

 

朝樹「(被せて)夕樹」

 

夕樹「何?」

 

朝樹「……あのことは風花には言ってないんだな?」

 

夕樹「……言えるわけないだろ、ほんとは俺がけがさせたなんて。ガキのいたずらでもあれは許されないことだった。朝樹が自分がやったって言って俺を庇って、父さんにぶん殴られてたときも、俺、怖くて本当のことが言えなかった。今更誰にも言えないだろ」

 

朝樹「(ぽつりと)そうか」

 

夕樹「(間。ちょっと無理してる風に明るく)俺、そんな卑怯者だからさ、やっぱり朝樹には敵わないよ、学歴も、収入もさ。風花が朝樹選ぶのは当たり前だよ」

 

朝樹「(ためらうような間をおいて)だったら、俺も卑怯者だ」

 

夕樹「え?」

 

朝樹「俺、夕樹に謝らないといけないことがあるんだ」

 

夕樹「朝樹が俺に?」

 

朝樹「うん」

 

夕樹「潰れかけの花屋を俺に継がせて、自分は親方日の丸とか? それだったら俺、花屋継ぐのが夢だったから問題ないって言ったじゃん」

 

朝樹「そうじゃない。(少し間をおいておずおずと)夕樹さ、風花が入院してるとき、時々アネモネのミニブーケ届けてたろ。顔も見せずに病室のドアのところに置いて」

 

夕樹「何を言い出すかと思ったらそんな昔のこと……」

 

朝樹「(被せて)風花は今も、あれは俺が届けたんだと思ってる。(間をおいて、申し訳なさそうに)でも、俺は訂正してないんだ」

 

夕樹「知ってたさ。でも、朝樹が大人たちから怒鳴られてるとき、俺が何も言えなかったのに比べりゃ、あんな売れ残りのブーケなんか大したことないって」

 

朝樹「(言っていいのかどうか考えこむような間をおいて)……夕樹、お前、風花のこと好きだったろう」

 

夕樹「(笑い出して)何言ってんの?」

 

朝樹「俺たち双子なんだぞ。夕樹の考えてることくらいわかる」

 

夕樹「じゃあもっとわかれよ。なんで式直前にそういうこと言っちゃうわけ? ここはしれっと流して終わらせるところなんだよ」

 

朝樹「(間をおいて)ごめんな」

 

夕樹「謝るな。空気くらい読めって。(笑って)あーあ、新郎が式の前に何を言い出すかと思ったら……そういうくそまじめなとこ、ほんっと朝樹は変わらないよな」

 

朝樹「……変わってないのは、お互い様だろう?」

 

SE:近寄ってくる慌ただしい足音(草履、もしなかったらスニーカーでOK)

 

母「(SE扱いの台詞。編集時は小さめに、遠くから呼びかけられている感じで。慌ただしい語調で)あ、朝くん、ブートニアやってからベールダウンするから、一緒に入って! カメラの人も入るから!」

 

朝樹「(風花の母に返答して、離れたところへ向かって)あ、はい!」

 

夕樹「(ちょっと笑って)とにかく、朝樹も風花もばちくそキマってるし、今日は絶対いい式になる。(しみじみと)おめでとう……ほんとに、おめでとう」

 

――終劇。

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