花咲上人伝
―伝江山菰筆写本 現代語訳―
昔々、あるところに独り暮らしのおじいさんがいました。
ある日、おじいさんは仔犬を拾いました。
仔犬は犬にしてはちょっと変でしたが、細かいことを気にする性質たちではなかったおじいさんはその小さな仔犬にポチという名をつけ、大切に育てました。
こうして仔犬はすくすくと育ち、キリッと褌を締めた筋骨隆々の偉丈夫になりました。畑を荒らす鳥や獣、村の鼻っつまみや乱暴者も一睨みで震え上がり、逃げていきます。犬の耳と尻尾さえなければ、かの有名な唐土の猛将、呂布奉先もかくやあらんという姿です。
この辺りで当然変だと思うはずなのですが、おじいさんは細かいことを気にするような性質ではなかったので、いつもポチの頭を撫でさすり、仔犬の頃と同じように可愛がっていました。
こんな暮らしをしていたせいで、ポチにも思うところがあったようです。
ある日、裏の畑でポチがおじいさんを呼んでいました。おじいさんが行くと、犬はきりきりと細く縒よって食い込ませた褌をずらし、ピシャッと筋肉でがちがちの尻っぺたを叩いて見せ「ここ掘れワンワン」と言いました。
おじいさんはやっと、こいつほんとに犬なんだろうかと思いました。
しかし、昔ばなしのおじいさんとしてどう振舞うのが一番いいのかおじいさんは本能的にわかっていました。
さっそくおじいさんは■■■■■■■■■■■■■■、掘るたびに■■■■艶めかしくキャンと声を上げ■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■先っちょに黄金がこびりつき■■■■■■■、■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
(※紙面にシミ、虫害のため読めず。各研究機関により修復が試みられている)
ところが、その三日後、ポチが好い声で啼いているのを聞いた隣の意地悪じいさんが犬を貸せと乗り込んできて、下半身の掘っ立て小屋が先走るままに強引にポチの首につけた綱を引っ張りました。ポチは、隣の意地悪じいさんに
「放さんかジジイ!」
と泣いて抵抗しましたがあっさり連れていかれてしまいました。
おじいさんは細かいことは気にしない性質なので、ジャイアン乙、と思いました。
その三日後、隣の意地悪じいさんはポチと仲良く恋人つなぎをし、いちゃらいちゃらとおじいさんの家へやってきました。
ポチはおじいさんに土下座して言いました。
「おじいさん、ぼくはおじいさんに大切にされてとても幸せでした。おじいさんはぼくのしてほしいことはなんでもしてくれました。だけど、僕を一匹のオス犬として真剣に求めてくれたことはありませんでした。でもダーリンはケダモノのようにぼくを求めてくれていろんなこと教えてくれて、ぼくは漢の幸せを知りました。ごめんなさい、ぼくダーリンと暮らします。すぐお隣だし、お味噌汁の冷めない距離で、畑仕事とか家事とかは毎日今まで通り手伝います」
隣の意地悪じいさんもひれ伏しています。もはや意地悪さは消え去り、真摯に恋する少年の顔つきです。
「今までずっと嫌がらせしてきたことは済みませんでした、心から反省しています。俺……ポチ君のおかげで本当の愛を知ったんです。どうか、ポチ君と一緒になることを許してください、お義父さん」
お義父さん呼ばわりされたおじいさんは、こいつ俺より2コ上じゃなかったっけ、とは思いましたが、細かいことは気にしないので、二人で幸せにおなり、と言葉をかけました。
二人はおじいさんに何度もありがとうと言って、イチャコラしながら帰っていきました。おじいさんがその後ろ姿を眺めていると、ポチのお尻に食い込んだ褌からはみ出してぽちっと赤い薔薇が咲き、そこから細い紐が出ていて隣のおじいさんがその先を持っているのが見えました。(※解釈に諸説あり)
おじいさんは、細かいことは気にしない性分でしたがなんだかもやもやしたので、その場のノリで出家し動物と関わるのはやめて花を育てました。その腕前は素晴らしく、枯れたと思われた贈答品の蘭を拾っては咲かせ「花咲上人」として評判になりました。
めでたしめでたし。