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○○ねこちゃんのオムライス

 

*登場人物(名前は任意に変更すること)

A(課長)・・・30代半ばの女性。Bの上司。仕事はできるが変わり者。姓がA、名前は○○。

B・・・Aより二つほど年下の男性。昨年離婚して奮闘中のシングルファーザー。

C・・・Bの子ども。5才女児。

モブ数名・・・台詞は多重録音のガヤ音源のみ。バリエーション歓迎。兼ね役OK。

 

 

*演技・編集上の注意

・作品ジャンル:ラブコメ

・タイトルは役名によって適宜変更すること。

 例えば、A=田中花子と設定した場合、『はなねこちゃんのオムライス』など。

・指定していない箇所のSEやBGMは任意で。

・何にも考えずに書いているので好きなように演じて下さい。

・方言変更、性別変更、性別変更による言い回し変更可

 

*以下本文


 

場:定時のオフィス。

 

A「さあ、今日は月に一度のノー残業デー! ほーらみんな、帰った帰った!」

 

モブ数名「お疲れさまでしたー」「お先失礼しまーす」(順不同、アドリブOK、ランダムな感じで重ねる)

 

A「はーい、お疲れさまー」

 

 

B「(デスクで溜め息)」

 

A「どうしたの? 残業? (やれやれという感じで)今日残業されると、私が始末書書かされるんだけど?」

 

B「あ、残業じゃなくて……ぼーっとしてました。プライベートでちょっと悩んでいることがありまして」

 

A「んー、私でよければ聞くよ」

 

B「(おずおずと)あの、課長……変なこと訊きますけど、オムライスって作れますか」

 

A「オムライス? 作れるけど? なんでそんなこと訊くの?」

 

B「あさって娘の誕生日なんですけど、オムライスを作ってくれって頼まれまして……」

 

A「ああ、Cちゃん、お誕生日なんだ。レストランみたいにきれいに作れなくても、お父さんが作ってくれるだけで、Cちゃん喜んでくれると思うよ」

 

B「そういう問題じゃないんです……作る気になれないんです」

 

A「どうして?」

 

B「(間を置いて、苦しそうに)……妻が出て行った日、うちに帰ったら、ダイニングのテーブルで娘がぼろぼろこぼしながらオムライス食ってて……あいつ、最後に我が子の好物を作って、食べてる間にしれっと出ていったんです」

 

A「ああ……」

 

B「今でも思い出すんです。……娘が一人ぼっちでTV見ながらオムライス食ってる姿……あいつのことはもうどうでもいいんですけど、オムライス見ると気が滅入ってしょうがなくて」

 

A「うーん、気持ちはわかるけど、Cちゃんが食べたいっていうんだから、やっぱり鋭意努力したいよね」

 

B「……はい」

 

A「あさってって、土曜日だよね。お邪魔じゃなかったら、応援にいこうか?」

 

B「えっ? いいんですか?」

 

A「うん。私の作り方でよければ特別に伝授してあげる。かんたんだから、シングルパパにもサステナブルだよ」

 

B「(感激した様子で)ありがとうございます!」

 

A「でも、Cちゃんはお父さんのオムライスが食べたいんだから、私はあくまでもレシピ提供者兼応援係。そこんとこは間違えないでね」

 

B「はい! ほんとに助かります!」

 

SE/BGMで時間経過を示す。

 

SE:マンションのドアチャイム、ドアの開閉音

 

B「来てくれてありがとうご……えっ?!」

 

A「(声を高めにハイテンションで)こんにちはにゃん! Cちゃんお誕生日おめでとうにゃん!」

 

C「ぅえっ? 猫?」

 

B「マジですか……」

 

気まずい間

 

C「(不思議そうに)……課長さん、なんでねこのかっこしてるの?」

 

A「えっ」

 

C「知ってるよ、課長さんが猫のぬいぐるみ着てるんでしょ。課長さんの声だもん」

 

B「すみません、今日、課長が来るって、先に話してしまってて……でもなんで猫の着ぐるみなんですか?」

 

A「(動揺でところどころ声が裏返って)違うにゃん! 課長じゃないにゃん。Aねこちゃんだにゃん! Cちゃんはねこが好きにゃん? (白けた間のあと)だから……あの、喜んでくれると思って、サプライズ……だったんだけど……にゃん」

 

さらに気まずい間

 

B「……気を遣ってもらってすみません。とりあえず、あがってください」

 

C「(こどもなりに気を遣って)Aねこちゃん、かわいい! 来てくれて、C、うれしいな!」

 

A「うん……(しょんぼりしつつ、ごそごそして)あ、これ、お誕生日プレゼントにゃん……Cちゃんが喜びそうなもの、一生懸命考えて選んだにゃん」

 

B「わあ、ありがとうございます! ほら、C、プレゼントをもらったときはなんて言うのかな」

 

C「ありがとう! ねえ、Aねこちゃん、開けていい?」

 

A「うん、開けてみてにゃん」

 

SE:ガサゴソ包みを開ける音

 

C「これ、なあに?」

 

A「ちびっこコロンセットにゃん。いちごとかラムネとかプリンとかの匂いの水だにゃん。飲むんじゃなくて、ほんのちょっとお洋服の端っことかにつけたら、Cちゃんがいちごとかプリンの匂いになるにゃんよ」

 

C「あ、Kちゃんが保育園につけて来てた! C、こういうの欲しかったんだあ! ありがとう!」(Kは任意の名前)

 

B「ありがとうございます。お気遣い恐縮です」

 

A「喜んでもらえて、Aねこちゃんもうれしいにゃん」

 

B「さあ、Aねこちゃん、今日はオムライス作るの手伝ってくれるんですよね? さっそく取り掛かりましょう! 」

 

A「う、うん。Cちゃんもお手伝いするにゃん?」

 

C「する!」

 

B「おいしいオムライスの作り方を、Aねこちゃんに教えてもらおうね」

 

A「じゃあ、お父さん、ご飯はあるにゃん?」

 

B「はい、保温してます」

 

A「鶏肉は細切れ、マッシュルームは薄切り、玉ねぎと人参とピーマンは粗めのみじんぎりにゃん」

 

B「はい」

 

SE:まな板の上で色々包丁で切る音

 

A「お野菜とお肉とほんのちょっとのバターを、耐熱容器に入れるにゃん……塩コショウちょっとふってレンジ強で1分半にゃん。あ、レンジの出力とかで火の通りが変わるから、適宜時間の増減はするにゃんよ?」

 

SE:レンジの音

 

A「そして、ご飯を入れて、混ぜて、これをちょびっとのお湯で溶いて入れるにゃん」

 

SE:インスタントラーメンの袋をばりっと開ける音

 

B「塩ラーメンの粉末スープ?」

 

A「そうにゃん。コンソメでもいいけど、よりコンプリケイテッドなコクが出るにゃん。2合だったら、半分入れて、使わなかった麺と粉末スープは、袋麵の焼きそばと同じように使えるにゃんよ。えげつなくたっぷりのケチャップとちょびっとのウスターソースも混ぜて、もう一回レンジで3分! 炒めないチキンライスの出来上がりにゃん!」

 

SE:レンジの音

 

B「うわ、うまそー!」

 

C「いいにおーい!」

 

A「ほら、お父さん、チキンライス混ぜて加熱ムラをとってにゃん。しばらく置いて味をなじませるにゃん」

 

SE:耐熱ボウルに入れたチキンライスを混ぜる音

 

B「フライパンを洗わなくてよくて楽ですね。かちょ……Aねこちゃん、家でこういうのよく作ってるんですか」

 

A「ズボラ飯開発がAねこちゃんの趣味にゃん。サイドの料理はどうするにゃん?」

 

B「あ、もう作っちゃってて、あとはオムライスだけなんです」

 

A「さすが! できる男にゃん」

 

B「(苦笑)」

 

A「さあ、次は、卵を焼くにゃん! 牛乳と塩とちょっとだけマヨネーズ入れるにゃん。しっとりふんわりになるにゃんよ」

 

B「はい」

 

ボウルで卵をかき混ぜる音、フライパンで焼く音

 

A「ガンバレー! にゃー! にゃー!」

 

C「お父さんがんぱれー!」

 

B「(笑って)後ろで騒がれると緊張しますよ~~」

 

A「その調子にゃん! うまいにゃん!」

 

B「おおっ! なんとか形になった!」

 

A「ケチャップで好きな絵や言葉を書いてー……完成にゃーん!」

 

SE:「パパ―ン♪」「パンパカパーン」など、いかにも上手くいったような効果音

 

C「わあ、おいしそー!」

 

A「さあ食卓の準備もできたし、お誕生日のディナーにゃん!」

 

SE:着席する音

 

B「では」

 

B・C「いただきまーす」

 

SE:食事の音

 

C「(もぐもぐしつつ)おいしーい!」

 

B「ほんとだ。手抜きを感じない!」

 

A「えっへん!」

 

B「……Aねこちゃんは食べないんですか? せっかく三人分作ったのに」

 

A「Aねこちゃんの分は要らないって言ったにゃん?」

 

C「Aねこちゃん、一緒に食べようよー! ケーキもあるんだよー?」

 

A「このかっこだし、察してにゃん。Cちゃんが楽しいお誕生日を過ごしてくれれば、Aねこちゃんはハッピーにゃん」

 

C「じゃあ、ご飯終わったら、一緒にゲームしよう? スラッシュシスターズ、面白いんだよ?」

 

B「ゲームは、お風呂に入って歯も磨いて、寝る支度が全部済んでからだろ?」

 

C「わかってるよ! ねえ、Aねこちゃん、待っててくれる?」

 

A「うーん、じゃあ一回だけにゃんよ?」

 

SE/BGMで時間経過を示す

 

SE:雨が降り始める音 リビングのドアを静かに閉める音

 

A「……Cちゃん、寝たにゃん?」

 

B「はしゃぎすぎて疲れたみたいですね。ぐっすりですよ」

 

A「Aねこちゃんも疲れたにゃん」

 

B「(笑って)……Cにつきあってくれてありがとうございました。私もCも楽しかったです」

 

A「よかったにゃん。これ、今日のためにアマポンで買ったにゃんよ」

 

B「(笑って)はしゃぎすぎですよ」

 

A「だって子どもにはお誕生日はビッグイベントにゃん」

 

B「(笑って)私と二人でも、課長はAねこちゃんの口調なんですね」

 

A「ショーマストゴーオンだにゃん。これを脱ぐまでAねこちゃんはAねこちゃんだにゃん。(背伸びしながら)ふうぅぅ、でもそろそろ電池切れにゃん。帰るにゃん」

 

B「Cも寝たし、やっとゆっくり話ができると思ったのに」

 

A「ごめんにゃん、汗かいたしなんかチクチクして痒いし、早く着替えたいにゃん」

 

B「どこで着替えるんですか」

 

A「このマンションのエントランスに多目的トイレあるにゃん? あそこで新聞紙敷いて着替えたにゃん。帰りもそこで着替えるにゃん」

 

B「(笑って)だからエントランスのインターホンからここまでえらく時間がかかってたんですね……Aねこちゃん、うちで着替えて、オムライス、食べていきません? こんな時間ですし、お腹空いたでしょう。あっためますから」

 

A「んー、すっぴんだし髪もぐしゃぐしゃだし、帰るにゃん」

 

B「私は全然構いませんし、よかったらシャワーも使ってください」

 

A「それは、よくないにゃん……やっぱり、人様のおうちでシャワーとかはちょっと……」

 

B「……無神経ですみません」

 

A「いやご厚意はありがたいにゃん」

 

B「私の『こうい』はカインドネスの厚意じゃなくて、ラブの好意ですけどね」

 

A「(笑って)冗談はやめるにゃんよー、もう」

 

B「冗談でこんなこと、上司にいうと思います? (長い間)……課長、私のことは何とも思ってないんでしょう? だからこんな風に家に来てユニークなことができるんでしょうけど……(ためらった後)私は、課長のこと、好きです。」

 

A「にゃっ?!」

 

B「子持ちのバツイチ男に好かれても迷惑なだけだってわかってます。でもやっぱり、伝えたかったんです。黙っていられなかったんです。それにCも、今日告白できなかったらお父さんはヘタレって園で言いふらすそうです」

 

A「Cちゃんが?!」

 

B「子どものこと言ったら狡いですよね。ごめんなさい。……あの、今までみたいに、仕事仲間でいたほうがいいなら、忘れてください。せめて、避けたりとか嫌ったりとかはしないでください」

 

A「(困ったように)忘れろって言われて忘れられるほど、Aねこちゃんは都合よくできてないにゃんよ……」

 

SE:雨が激しくなる。遠くで雷鳴。

 

A「あ、雨?! 晴れてたのに」

 

B「今夜から雨の予報でしたよね。さっきからずっと降ってますよ」

 

A「ええ?……被り物で雨音がよく聞こえなかったにゃん……うっわーアンラッキーにゃん」

 

B「アンラッキー……ですか。(寂しそうに)……帰らずに、私とここで過ごすっていう選択肢は、ないんですね」

 

A「そ、そりゃあ、……あの……(たっぷりの間のあと動揺した小声で、ぽつりぽつりと)じゃあ……シャ……シャワー、借りてもいいにゃん? ……オムライス、食べていくにゃん」

 

――終劇。

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