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闘え! バトラーX!!

 

*登場人物

バトラーX(エックス)・・・四十代半ばの男性。ヒーロー声。途中から温厚で真面目そうな声に。

怪人ゲスニート・・・アラサーの男性。神経質そう。ヴィランらしいゲスな声。途中からノーブルな声に。

女(□□家ご令嬢)・・・20代女性。没落お嬢様で露骨にがめつい。名前は任意。

子ども(モブ)・・・幼稚園児の性別不問モブ。純真。

ママ(モブ)・・・子どもの母親モブ。常識家。

 

*演技・編集上の注意

・この作品はコメディです。

・指定していない箇所のSE/BGMはご自由に。

・間をとるように指示した部分についてはゆったり間をとること

 

*以下本文


 

SE:都会の雑踏、市街地の環境音

 

女「きゃあああああ! 助けてええぇぇぇ!!」

 

怪人ゲスニート(以下、「怪人」)「フハハハハハ! 大人しくしろ! 大人しくすれば可愛がってやるぞ」

 

女「いやああああああ、きもおおおおおおい! 誰か助けてええええ!」

 

バトラーX(以下、「X」)「(カッコよく声を張って)待てえええええぃ!! とう!」

 

SE:軽やかに空中回転して着地した音

 

BGM:いかにもヒーローものっぽい戦闘曲

 

X「お嬢さんを離せ! 怪人ゲスニート!」

 

怪人「フハハハハハ、また会ったなバトラーX! 今日こそ決着をつけてやる!」

 

SE:BGMがフェイドアウトし、先ほどの市街地の環境音を流す

通行人としてモブ子モブママ登場。

 

モブ子「(遠くから指差している風に)ママ~あの人たち何してるの~?」

 

モブママ「しっ! 見ちゃいけません」

 

モブ子「ママ、あの人たち変なカッコしてるよー恥ずかしくないのー?(フェイドアウト)」

 

モブ子モブママ、足早に退場

 

X「し、仕切り直すぞ!」

 

怪人「……お、おう」

 

BGM:再度ヒーローっぽい戦闘曲

 

X「ゲスニート、お嬢さんを離せ!」

 

怪人「フハハハハ! この女を離して欲しければ……」

 

女「(怪人の台詞に被せて)あ、このゲスニートって……もしかして、最近、世間を騒がせてる連続誘拐未遂犯ね?! この世のものとは思えないくらい美しい女性だけを狙うっていう!」

 

BGM:戦闘曲から微妙な気分になる曲へ

 

怪人「え」

 

女「やっぱりそうなのね! (うれしそうに)私、この類まれな美しさのせいで、こんな危険な目に合ってるのね!」

 

怪人「あ、ああ……(面倒くさそうに)まあ……そういうことにしとこうか」

 

X「何をつべこべ言っている! お嬢さんを離せ!」

 

女「(Xの台詞に被せて)それで、こっちのおじさんは、私を助けに来た正義のヒーローってわけ?」

 

X「えっ……うん、そうだけど」

 

女「若いイケメンがよかったなー。私謙虚なんであんまり贅沢は言わないけど。んで、このきっしょいコスプレ変態二人で、美しい私を奪い合おうって感じ?」

 

X「(ちょっとびびったように)あのー、お嬢さん? おじさん、そういう風に、オンナノコを奪うとか奪われるとか、そういうことで正義の味方やってるんじゃないんだけども」

 

女「じゃあなんのためにやってるの」 

 

X「ぶっちゃけると、仕事だから仕方なくやってるんであって、お嬢さんがどうなろうと別にどうでも……」

 

怪人「(Xの台詞に被せて)なんだと!?……おまえ、それでも正義のヒーローか!」

 

X「(溜め息)やれやれ、仕事ですからねぇ……お嬢さん、聞いてくれる? 渡された台本にはさ、『お嬢さんを離せ』しか書いてなくて、あとは適当にアドリブでやれって……そんなこと言われても、普通そういう台詞出てこないでしょ? (溜め息をついて、やる気なさそうに)ゲスニート、お嬢さんを離せ」

 

女「あー、道理でさっきから台詞が『お嬢さんを離せ』しか出てこないわけだわ」

 

X「おじさんね、まじめーにじみーに生きてきたの。なのに、無茶ぶりされてさ、ものすごーく困ってるわけ。こんな恥ずかしいカッコさせられて、バツ1だからってXって名前つけられてさ」

 

女「バツ2だったらダブルエックスだったわけね」

 

X「そうそう。ひどいよね。アクションもね、この歳でしょ、腰とか肩とかいっぱいシップ貼って頑張ってんの」

 

女「あー……私だったら辞めるわ」

 

X「辞めるって簡単にいえないんだよ……このご時勢、まともな就職先なんて見つからないだろうし」

 

女「今、まともなとこに就職できてるのかっていう問題がまず来ると思うけど」

 

X「ぐっ……」

 

怪人「だっ、黙れ! おい、女、自分を助けに来た正義のヒーローに向かって職業ディスってんじゃねえ! おまえもおまえだバトラーX! 自分の立場を忘れて自分語りか、いい加減にしろ!」

 

X「申し訳……ございません……」

 

怪人「(キレてヒステリックに)謝るなあああああああ!! おまえは何だあああああ!! 今、おまえはどういう立場だああああ!」

 

X「正義のヒーロー……バトラーX……です」

 

怪人「そしたら、らしく振舞えよ! ヴィランに敬語使うな!(数回深呼吸して落ち着いてから、やりきれなさそうに)はあ……とりあえず、みんな、まじめにやろ? ね?」

 

女「いきなり学級委員長みたいなこと言うわね」

 

X「まじめにやったとして、落としどころ、どうするんですか」

 

怪人「今目まぐるしく考えてるから待て!」

 

女「(間。なにかに気づいて)え? あれ?」

 

怪人「どうした」

 

女「ちょっと離して」

 

SE:軽々と吹っ飛ばす音

 

怪人「あいたっ……いってええええええ」

 

SE:勢いよく駆け寄る音 (ハイヒールの音が望ましい)

 

女「ねえ、バトラーバツイチ!」

 

X「お嬢さん、今まで何を聞いてたのかな」

 

女「質問を質問で返さないでほしいけど今それどころじゃないわ。気づいたんだけど……あなたのこのコスチューム、自前?」

 

X「一応、仕事用の支給品。返却不要とは言われたけど……」

 

女「このきらきらしてるの、ジルコン……いや、ダイヤよね? この緑のは……ヒスイ?!」

 

X「その辺にあるやつで適当に仕立てたって言われただけで細かいことは知らないんだけど」

 

女「あ、ここんとこの金具、やたら重いわ……K18の刻印もある! こういうのを猫に小判、豚に真珠っていうのね!」

 

X「ちょっと、ひっぱらないで! 伸びちゃうから」

 

女「私の目はごまかせないわよ……よく見ると……この生地……この縫製……ただものじゃないわ! それに、なんか、あんた、高貴な匂いがする! お金持ちの匂い!」

 

X「いやそれシップの匂いだから」

 

怪人「ちょっと、お前ら、ちゃんとやれっつってんだろ?!」

 

女「(ドスを利かせて)おめえは黙ってな! (Xに向き直って猫なで声でくねくねと)ねえ、ここに居てもらちが明かないでしょ? 一緒にカフェにでも行かない? 私いい店知ってるの」

 

X「え、なに? どうしたの?」

 

女「私、なんだか疲れちゃったなーって。ねーえ、バツイチさん、一緒に行きましょ?」

 

X「今喉乾いてないし、仕事中なんで……」

 

女「いいじゃない、仕事してる人ってみんな外回り中にちょっとお茶を飲んだりご休憩したりしてるものでしょ? お仕事のこと、ゆっくり聞かせてほしいの……」

 

怪人「うん、それもいいかもなあ。行ってこい、バトラーX」

 

X「ええええ?!」

 

怪人「私も大概めんどくさくなってきたから帰りたい。ただ、お茶はともかく、ご休憩はやめとけ」

 

X「お茶すら嫌ですよ」

 

女「(やれやれといった感じに溜息を吐きながら)あ~あ~あ~あ~、私を誰だと思ってんの? 私はねえ、被害者様なのよ? 襲われてんのよ? 被害者は叫んだり怖がったりすごく忙しいの。しかも若くてきれいでか弱いの。そんな私が直々に誘ってるの! 感謝しなさいよ! だいたいねえ、 今、ここで、誰が法的にもビジュアル的にも強い立場にあると思ってんの?」

 

怪人「はいはい、つよいつよい。これ以上関わり合いになりたくないんで、いってらっしゃーい」

 

X「(不承不承に)じゃ、じゃあ、……行ってきます」

 

SE:ここから先の女とXがごちゃごちゃしゃべるのを徐々にフェイドアウト

 

女「(打って変わって甘えた声で)うふ、あのね、桜が丘の『此里茶寮』《このさとさりょう》って知ってる? あそこのアフタヌーンティーに連れてってぇ」

 

仮面「(素で)え……その店すっごく高いって聞いたことがあるんだけど」

 

女「私みたいなハイクラスの女子とお茶するんだったら此里茶寮くらいじゃなきゃ~。あ、カフェが嫌なら、私の部屋でもいいのよ? そのかわり、ここのジッパーストラップ、ちょうだい?」


 

SE:再度、都会の雑踏の音

 

怪人「(心底疲れたように溜め息をついて)……はあ……またあの手の女か……最悪だな(溜め息)」(この辺りからイケボに徐々に変えていく)


 

SE:溜め息音と共に歩行音、自販機で飲料を買う音、開缶して飲む音、

 

怪人「ぷは~。(しみじみと)しみるなあ……(溜め息)」

 

再度、通行人としてモブ子モブママ登場。

 

モブ子「(遠くから指差している風に)ママ~あの人まだいるよ~?」

 

モブママ「しっ! 指差しちゃいけません」

 

モブ子「ママ、あの人、コーンスープ飲んでるー」

 

モブママ「しーーーっ! ああいう人を見たら目を合わせちゃダメ! 知らんぷりして気づかれないように逃げるの! わかった?」

 

足早に退場。

 

怪人「(間。溜め息)そろそろ来る頃だが……遅いな」

 

SE:高級車が停まる音、車のドアが開く音

 

X「(Xと同一人物であることがわかる程度に実直な執事声で)坊ちゃま、お迎えに上がりました。遅くなりまして申し訳ございません」

 

怪人「(被せて)遅い!」

 

X「お許しくださいませ。□□家のご令嬢をまくのに少々手間取りまして……」

 

怪人「(やさしく)確かにあの女を振り切るのは大変だったろう。でもな、(キレて)何で君だけ着替えてきているんだ。この私をこの生き恥さらしまくりな格好で衆人環視の中放置したままで!」

 

X「ご自分でデザインなさったくせに……」

 

怪人「何か言ったか?」

 

X「いえなんでもございません」

 

SE:車に乗り込む音、発車音、走行音

 

怪人「で、どう思った」

 

X「何がでございますか」

 

怪人「あの女について、君の忌憚のない意見が聞きたい」

 

X「(ちょっと迷っているような間をおいて)……正直申しまして、あの方が坊ちゃまの奥様に、というのはちょっと……」

 

怪人「だよなあ……」

 

X「決定的に、お品ひんが残念でいらっしゃいまして」

 

怪人「うん、そんな気がした。□□家も堕ちたもんだ」(□□は任意の名字)

 

X「では、先ほどのお嬢さまとのご縁談は……」

 

怪人「断る。っていうか、正式に話が来る前に潰す。徹底的に潰す。あのくそジジイ、つぎからつぎへ変な女あてがおうとして来やがる! おい、車はジジイんとこに回せ。孫の口から直接、文句の一つも言わんとな」

 

X「承知いたしました」

 

SE:しばらく走行音

 

X「(遠慮しながら)坊ちゃま、一つ、申し上げてもよろしいでしょうか」

 

怪人「何だ、言ってみろ」

 

X「(遠慮しながら)あの、……坊ちゃま……ご縁談が持ち上がるたびに……このようなやり方で相手のお嬢様をお試しになるのはいかがなものかと……」

 

――終劇。

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